第77話 共同戦線。

「それじゃ、バッテリーやばいからそろそろ切るね」

『うん。こっちも10%切ってるから。おやすみなさい、ロザリエールさん』

「はい。おやすみなさい、麻夜さん」

『タツマおじさんも、おやすみー』

「はいはい。おやすみ」


 通話が切れた。俺はそのままインベントリにスマホを格納。これで充電できるとか、なんだよこの『個人情報表示なぞシステム』。


「良い子でしたね、麻夜さん」

「うん。18歳とは思えないほど大人だったかも」

「えぇ。女性はわからないものですよ?」

「はい。見た目で判断しないように、心がけます」

「よくできました。……うふふふ」

「あははは」


 麻夜ちゃんには、それとなく城内の確認。もう一度、国王や王妃などの指先の確認。もちろん、危ないことはしないようにって、ロザリエールさんがしっかり釘を刺してたっけね。それで様子をみて、外出ぬけだしてくるとのことだった。


 もちろん、俺が次にこっちへ戻ってくるときに合わせて予定を組むつもり。これでロザリエールさんが、無理に王城内へ潜入する必要はなくなった。


 5日目の朝。ロザリエールさんからスマホを出して欲しいとお願いされた。


 スマホをインベントリから取り出したら、すげ、バッテリー100%に戻ってるよ。メッセージは溜まってないね。よかった。


「ご主人様」

「なんでしょ?」

「麻夜さんにお話ししても大丈夫か、聞いていただけますか?」

「あ、そっか。自室にいるかどうかわかんないもんね」

「えぇ。なるべく彼女の安全を考えねばなりませんので」


 俺は『おはよう。ロザリエールさんがお話あるっていうけど、今大丈夫?』とメッセージを投げた。『個人情報表示いつものがめん』の端には、午前7時って表示があるから、まだ朝食前だと思うんだよね。


『ぺこん』

『はい。大丈夫ですと伝えてください』

「あ、返ってきた。大丈夫だって」

「ではお願いします」


 ぽち。


『ぽぽぽぽぽぽ』

『はいっ。麻夜ですっ。おはようございますっ』


 うわ、正座だよ。ベッドの上で、正座してるよ。ある意味覚悟して出たんだろうな? なんていうか、お気の毒さま……。


「おはようございます。麻夜さん」

『はいっ』

「早速で申し訳ないとは思うのですが――」


 なんだか邪魔したらいけないような気がして、俺はベッドに移動して少し離れてみることにしたんだ。


 調査の際の注意事項とかだね。昨夜はバッテリーがヤバかったから。いや、結構厳しい話もしてるな。女性としてしっかりするんですよ、とか。


「あなたたちの身に何があっても、あたくしたちが守りますので安心してくださいね」

『はいっ。ありがとうございますっ』

「そんなに緊張しなくてもいいんですよ?」


 いや、そうはいってもね。無理でしょ。


『あの、タツマおじさんに代わってもらえますか?』

「はい。ではまた夜にでも」

『はい。ごきげんようです』

「タツマ様」


 スマホを差し出してくれるロザリエールさん。


「はい。ありがと」

『おじさぁあああん』

「はいはいはい」

『大丈夫なの?』

「あー、うん。最初は怖かったときもあったよ。俺なんかより、すっごく強いし」

『うん。それはわかる。あ、そろそろご飯の時間だ。まったね』

「無理しないでよ?」

『うんっ』

「またね」


 終話。バッテリーは残り80%。インベントリに格納っと。


「実に良い子ですよね」

「うん。俺もそう思う」


 なんていうか、ジュリエーヌさんやメサージャさんにも、こんな感じなのかな? お酒の席では違うんだろうけど。


「心配がなくなりましたね」

「うん。それだけは助かったよ」


 ▼


 新・記・録! 俺どうしちゃったんだろう? ついに1日250人。もうこれ以上記録更新しちゃったら、ジュリエーヌさんとエトエリーゼさんが精神的に壊れちゃう。


 『リカバー回復呪文』かけながら謝ったよ。『ごめんなさい』ってさ。二人とも苦笑してたっけ。


 厩舎でロザリエールさんと落ち合って、セントレナの夕ご飯とブラッシングを終えて、宿に戻っていまここという感じ。


「無理してない?」

『うん、大丈夫だよー』

「じゃ、ロザリエールさんと代わるね」

『ちょっとまって、じゅんびがががが』


 ロザリエールさん、くすくす笑ってる。


「代わるねじゃなくて、一緒にの間違い」

『おどかさないでよー。あ、こんばんは』

「はい。こんばんは」


 早速、麻夜ちゃんはあれこれ調べてくれたみたい。まずは勇者付事務官のネリーザさん。彼女の指は綺麗だったそう。話によると、彼女の家は下位だけど爵位持ちなんだって。なるほどなと思った。別に貴族全員憎しじゃないから、知らされてないなら仕方ないとしか言いようがないからね。


 今日たまたま王女との接触があったらしく、そのときに確認してくれた。王女の指先は綺麗なものだったって。話では王女も回復属性魔法を使えるんだよ。けれど真夜ちゃん、麻昼ちゃん、朝也くんの3人は一度も回復してもらったことがないらしい。麻夜ちゃんはちょっとご機嫌斜めに話してたんだ。


 俺たちが暴露をしなければ、きっと良い関係を築けていたかもしれない。俺としては、麻夜ちゃんたちの身体のほうが心配だから、他の人は正直構っていられない。もちろん、城下の人たちは別よ?


 麻夜ちゃんと麻昼ちゃんが『訓練』という名目で行ってる水。こっそり鑑定したら、『悪素』って表示があったんだって。けど、麻夜ちゃんの鑑定のレベルはまだ1らしく、それ以上詳しいことがわからない。


 とにかく今は、繰り返し繰り返しでレベル上げの真っ最中だってさ。麻夜ちゃんは俺と同じ元ゲーマー。そういう単純作業は、上がった後の喜びがあるから嫌いじゃない。いや、端から見たらマゾっ気ありありに見えるほど、大好きな作業かもしれないわ。


 ちなみに、彼女の『個人情報表示』画面のどこにも『勇者』の文字はないんだって。麻昼ちゃんにも、朝也くんにも見当たらないそうだ。そもそも、称号の欄がないんだよ。もちろん俺のほうにもね。勇者って呼び名なんだろうってことでとりあえず落ち着いたんだ。


「そういやさ麻夜ちゃん」

『なんでしょ?』

「魔法、練習してる? 『まーや』はさ、魔道士だったわけじゃない?」

『もちろん、隠れて練習してるよー。魔法でどっかんどっかん、やりたいもんねー』

「聖属性魔法、いくつになったの?」

『んっとね、今2になったとこ』

「ずっと水に向かってどっこいしょじゃ、仕方ないか」

『でもね、火と土は部屋の中でできないけど、水と風はね4になったんだー』

「そりゃ凄い。最初は1だったんでしょ?」

『うん。ゲーマーだもの、レベル上げはハムハムルーチンワーク』

「そりゃそうだ」

『タツマおじさんはどうやってたの?』

「うん。朝から晩まで悪素毒治療。途中、パンをかじりながら、ずっとね。6日やって1日休んで」

『うわぁ、めっちゃブラックだ』

「まったくだよ。俺、ホワイト企業にいたのにさ」

『あははは。でもゲーマーとしてならどう? 楽しいでしょ?』

「そりゃね。レベルが上がるのはそりゃもう」

『そういえばさ、タツマおじさんのネームがさ、「リューマ」だったのってなんでなの?』

「俺のタツマの辰は、十二支でなんだっけ?」

『あー、竜だ』

「そそ。身バレしない程度に、自分でも呼ばれてわかりやすい名前にしてたんだよ」

『なるほど納得ありがとうです』

「じゃ、そろそろこの辺で」

『タツマおじさんとロザリエールさん、明日帰っちゃうんでしょう?』

「うん、あっちにも治療しなきゃいけない人が沢山いるからね。また7日後に戻ってくるけど」

『これ繋がってるからいっかー、ロザリエールさん、おやすみなさい』

「はい。おやすみなさい、麻夜さん」

『おじさんもおやすみー』

「短縮されてるし。おやすみ」

『あははー』


 終話。元気そうでなによりだった。


「それにしても、ものすごい情報量だったね」

「えぇ。あたくしが潜入したとして、何日かかることか。危ないことをしなければいいのですが……」

「大丈夫だよ。その辺は強かだと思うからさ」


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