第76話 インベントリ、驚きの機能。

 驚いた。確か、バッテリー残量が95%だったはずなのに、まさか、壊れた?


「いやいやいや、そりゃ困る。これも、すっごく高かったんだから」


 どれくらい高かったかって、去年売られてたスマホで一番高かったって言えば、わかる人にはわかるかもな値段だっんだよ……。


「どうかされたのですか?」


 ロザリエールさんがお茶を用意してくれてたんだけど、俺の声に驚いたんだと思うんだ。


「スマホが、いや、魔道具がね。んー、よくわかんないけど。動作はおかしくないんだよな。あれだけ写真撮って、バッテリー減らないわけないし。どうなってんだろう?」


 UMPC買っちゃったから、ネトゲ関連のアプリはアンインストールしちゃったし、元々スマホゲーはやらなかったから入れてないし。なんだかんだで初期状態な感じにして使ってたんだよね。


 ぼっちだったから、SNSもネトゲ関連垢しかフォローしてなかったし。ぼっちだったからメッセージ系アプリも入れてない。父さんと母さんがいなくなってから、職場とMMOの往復だったからな。


「まぁいいや。えっと、空から撮った写真は――」

『ぺこん』

「へ?」

「なんの音ですか?」

「いやこのスマホから出たんだけど」


『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』


「おい、止まれ。なんだこりゃ? ついに壊れたか? やめてくれよー」

「よくわかりませんがその、残念です」

「いやいやいや、落としてもないし、ぶつけてもいないし、……あれ? なんでSMSショートメッセージの未読が貯まっていくんだ?」


『ぺこん』


「あ、また、なんだこれ? ほんとに」


 SMSのアイコンタップして、……あれ? この『まーや』って名前? どこかで?


「あぁ、MMOのフレじゃないか? え? なんで?」


 そういえば、去年だっけか? 仲の良かったフレのひとりとアドレス交換したんだっけ? 沖縄に社員旅行行くって話したら、ずるい、おみやげほしいとか言われて、せめて写真だけでも送れって、クエストやレイドでも世話になってたし、『写真だけだよ?』って、そういやそうだったな。


 電話はかけてこなかったけど、主にメッセージと写真だけは交換したっけ。てか、昨日も確認したけど、ブラウザ立ち上げてもエラー表示。ネットなんて繋がるわけなかった。


 相変わらず、アンテナは圏外だし、WifiはOFFにして――あれ? ONになってる。なんだこの『kojin』ってSSIDは? 『こじん』、『個人』、あ、これ『個人情報』か? どういうこと?


「なんでもいいや。一番新しいメッセージは」


 ん? 『麻夜だよー』ってなんだこれ? どれ開けても、同じのが繰り返し入ってる? 違いは行頭に『やっほー』とか『おーい』とか、そのあとに『麻夜だよー』って続いてる。


 確かに、メッセージのやりとりは、間違いなくMMOのフレ、俺が知ってる『まーや』だけど。麻夜? へ? もしかして?


 俺は『どちら様ですか?』とだけメッセージを打って、送信したんだ。すると。


『ぺこん』

『やっと返事あったー。麻夜だよー。タツマおじさん元気にしてる?』

「まじか? 麻夜ちゃん?」

「ご主人様? 麻夜さんがどうかされたんですか?」


 俺はスマホのメッセージ画面をロザリエールさんに見せたんだ。


「ほらこれ。今俺が送ったんだけど、ってロザリエールさんは読めないよね?」

「どちら様ですか? の後ですよね? 『やっと返事あったー。麻夜だよー。タツマおじさん元気にしてる?』と読めますが、あら、確かに麻夜さんなのです?」


 この文字、ロザリエールさんにも読めてるのか?

「うん。何が起きてるのかわからないけど、麻夜ちゃんとやりとりができて――」

『ぽぽぽぽぽぽ』

「へ?」

『ぽぽぽぽぽぽ』


 画面に『着信』ボタンが表示されてる。思わず俺は反射的に押してしまったんだ。すると画面が切り替わって、麻夜ちゃんの顔が映ったんだよ。


『あ、やほー。タツマおじさん。あのときのお姉さんも一緒だー。こんばんはー』

「こ、こんばんは」

「こんばんは、麻夜さん。ご機嫌はいかがですか?」

『こ、これはご丁寧に。元気です。改めましてこんばんは。お姉さん確か、ロザリエールさんでしたよね?』

「えぇ。あたくしはロザリエールですが」

『麻夜です。よろしくしてくださいね?』

「えぇ。こちらこそよろしくお願いいたしますね」

『そうそう。タツマおじさん』

「う、うん」

『遅いよ。前はちゃんとメッセ返してくててたのにー』

「いやいやいや、色々あったんだってば」

『うん。わかってはいるけどねー』

「ところで、麻夜ちゃんってあの『まーや』だったのか?」

『そうだよ。半年以上、メッセしてたじゃない?』

「やっぱりかー、それでなんで急に?」

『そうそう。タツマおじさん知ってた?』

「何を?」

『空間属性、インベントリ持ってるでしょう?』

「あぁ、持ってるよ」

『インベントリにね、スマホ入れておくとね、充電だけされるっぽいのよ』

「まじですかー」

『うん、マジなのよ』


 壊れたわけじゃなかったんだ。


「麻夜ちゃん、今ひとり?」

『うん、ひとりだよー。麻夜の部屋からだよー』

「麻夜さん」

『はいっ』


 ロザリエールさんが話しかけると、態度変わるんだ。面白いな。


「お体の調子は大丈夫ですか?」

『はい。あれ以来指の黒ずみは、……ちょっとだけ見えるか見えないかくらいです』


 そっか。それでも少しは……、あの野郎。


「麻夜ちゃん」

『はいはいー』


 コロコロ態度が変わって面白い子だな。


「手元に水ある?」

『うんあるよ』


 グラスに入った水を見せてくれる。


「それさ、『鑑定』したら、悪素入ってる?」


 本題に入れた。気になってたんだよ。


『えっとね、んー。一応、表示はないよー』

「そっか。頑張ったんだね」

『うん。1日1時間以上やってるからねー』

「麻夜さん」

『は、はいっ』


 今度はロザリエールさんからの質問だ。ごめんね忙しくて。


「奴隷のような扱いは受けていませんか?」

『うん。今のところ大丈夫です。よほど麻夜たちが大事らしいから、ベタベタに甘い扱いなんですね』


 麻夜ちゃん、さすが18歳。しっかりとした受け答えできるんだね。思った以上に大人で、おじさんは嬉しいよ。


「麻夜ちゃん」

『なんでしょ?』

「ぶちっちゃけ聞くけどさ」

『うんっ』

「あの国王、どう思う?」

『んー、クエなら盗賊団の首領ボスって感じ? かなーりきな臭い、かな?』


 酷い言われようだ。でも当たってるのは間違いないよ。


「それでもさ、謁見のときかしづいてたじゃない? 忠誠誓わされたり、したんじゃないの?」

『あ、あれね。あんなの単なるロールプレイよ、やってみた系。麻夜がね、麻昼ちゃんと朝也くんに提案したの。忠誠誓ってるようなフリをしてたら、悪い扱いしないでしょ? って。勇者様だもんね』

「でもさ、悪素毒はほら」

『うん。あれだけはないわー。騙されたーって感じ。他は待遇いいんだけどねー』


 すごいぶっちゃけ感がある。けど一応、元気そうで良かったよ。


「麻夜さん」

『はいっ』

「国王や王妃、王女や他の貴族たちの」

『はいっ』

「指先に黒ずみはありましたか?」


 ごめん、それ聞かなきゃいけなかった。


『んー、どうだったかな? ネリーザさんと王女さんしか見たことありませんけど、綺麗な指してましたたよ?』

「やっぱりか、ロザリエールさん、あのケルミオットとかってやつの言ってることは」

「えぇ、外れてはいなかったということになりますね」

『え? え? どういうこと?』

「あのね、麻夜ちゃん。秘密にできるよね? もちろん」

『うん。いえ、はい。秘密は守ります』

「大丈夫ですよ。麻夜さんは良い子ですから」

『はいっ』

「それならね――」


 俺は麻夜ちゃんと、知りうる限りの情報を共有することにしたんだ。もちろん、このダイオラーデンだけの情報ね。まだ確定してない、クーデターみたいなことは秘密にしておくけどさ。


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