第20話 これはヤバいでしょ?
あの国、ダイオラーデンを外から見たことがないからなんとも言えないけど、ここもかなり大きな町のように思えるんだ。近づいていくにつれて、左右の川に沿って町は広がってる。
川のところは土手になってて、町を見下ろす感じ。いや、町じゃなく国なのか? 川と平行するように、柵? いや、城壁みたいな、塀でぐるりと覆われているんだ。建物の高さから考えて、2メートル、じゃないな。
建物の1階部分で、高さが3メートルあるらしいから。2階以上あったとするとだよ? 6いや、7メートル? もしかしたら、それ以上あるかもしれないな。
川の手前を左右に伸びてる方が、街道なのかも。橋を渡って、道は町中に続いてるんだ。門や関所はないっぽい。けれど、いつでも閉められるような、そんな雰囲気はあるんだよ。
橋を渡りきったころにはもう、辺りは暗かった。でも、町の明かりがあるから、足を止めようとは思わなかった。走るのはやめて歩いてたんだけどね。いくら肌寒いからって、これ以上汗をかきたくないからさ。
とにかく風呂、風呂に入りたい。ゆっくり湯に浸かって、精神的に癒やされたい。そのあとご飯に、お酒があれば言うことなしだよ。
城壁のような壁から、一軒目の建物まで10メートル以上離れてる。壁側もぐるりと周回するような道になってるみたいだ。左右を見ても、確かに建物は並んでる。とにかく明るい。7日ほど、天然の明るいか暗いしかなかったから。こういう人工的な明かりは懐かしく感じる。
とにかく、宿を探そう。話はそれからだ。ギルドからお金だけはもらってた。使う暇もなかったから、それなりに貯まってる。
「すみません。宿をさがしてるんですけど」
「どうし――うわっ。勘弁してくれっ!」
雑貨屋っぽい店先に、男性が出てきたみたいだけど、逃げるように引っ込んじゃったよ。……今、耳が変なところになかった? 犬みたいな、ぴょこっとしたやつ。店の棚の陰からこっちを覗いてる。あれがもし、本当の耳だとしたらだぞ? なんともまぁ、ファンタジーだな、おい。
「そこ、風上だから立ち止まらないでくれ。ま、まっすぐ行ったところに、十字路がある。それを右に行くと宿屋街だから、うぁっ、ひでぇ……」
丁寧に教えてはくれたけど、どういうこと?
「ありがとう。助かったよ」
返事がない。ただの、……あれ? よく見ると、通りに似たような――あ、『蜘蛛の子が散るように逃げる』ってこういうことか? 同じように耳を持った人、いなくなっちゃったよ?
とにかく俺は、教えてもらったように、十字路を右に曲がった。確かに宿っぽい店が並んでる。その中でも建物がしっかりしていて、綺麗で、ちょっと高そうな建物に入る。
「あの、とりあえず一泊、いいですか?」
「はいはい」
あ、今度は耳がない。あれ?
「あぁ、記帳はいいから先に風呂だね。一泊いくらまで出せるかな?」
「はい。銀貨2枚までなら」
「それならはい。階段上がって一番上。左に折れて突き当たりの部屋だよ」
宿の経営者かな? 年配の男性なんだけど、あ、手ぬぐいみたいな布で口元押さえてる。
「ごめんなさい。色々あって。先に風呂、いってきます」
「慌てなくていいからね」
階段上がって三階へ。そのまま左曲がって、突き当たり。鍵穴に鍵入れて、回すと『カチャン』と音がする。ドアを押して部屋に入って内鍵をする。
「どこだ? あ、ここか?」
入って右にドアがある。開けると手前がトイレ、奥が風呂場。あれ? お湯が張られてる。あ、なるほど、壁からお湯が流れるのか? もしかしてここ、温泉が湧くのか?
まぁいいや。石けんは? お、これか? それなりの料金だけあって、アメニティもしっかりしてるのか? 助かるわ。
服脱いで、うわ、汗くっさい。これか? これで耳が頭に着いてる人たちが逃げたのか? ズボン脱いで、パンツをうぉっ。こ、これは駄目だ。猛毒だ。腐った
さっさとお湯と石けんで洗って、絞って洗って。匂いがなんとかなくなったあたりで、絞ってインベントリへ。
デンジャーゾーンだった、股間もしっかり洗って、流して。もう一度洗って、流して。頭も二回洗って。匂い確認、……よし、こんなもんでいいだろう? お湯に浸かって、ちょっと熱めだけどいいわぁ。
「ふぅ……」
体温より少し高め。『個人情報表示』画面には温度表示ないんだよね。おおよそ40度あるかないかくらいかな? 硫黄の匂いはないから単純泉だと思う。頭からかぶったとき、塩気を感じなかったから、食塩泉でもないはず。浴室中が暖かいからか? 湯気が上がってる感じがなかったから、わかんなかったんだよな。それでも嬉しい、お湯をためる必要がないのは、マジで助かったわ。
そういや、最初に宿の場所を聞いた人、頭に耳あったよな? あれってもしかして、『ケモミミ』だったりしてな。そんなわけない――いや、ここは異世界だ。あるかもしれない。やばい、コスプレみたいじゃないか? 魔法は確かに非現実的だけど、ダイオラーデンじゃ異世界感が薄かったんだよね。やっと実感するな、ザ・異世界ってやつを。
えっと、もっかい『個人情報表示』。んー、午後七時か。まだギルドやってるかな? ってよりあるのか? さっきの店主さんに聞いてみるか。
風呂からあがって、インベントリから新しいパンツ、シャツ、ズボンを出して着替えるのは忘れない。部屋を出て、一階へ。あ、いたいた。
「さっきはすみません。宿代、どうしますか?」
「あぁ、風呂入ったみたいだね。どうだい?」
「はい。温泉沸いてるんです? やっぱり」
「温泉? いや、そんなのは聞いたことがないが?」
「へ?」
「お湯を沸かす、魔道具があってだね。常に沸かして、流してるんだよ」
「そりゃすごいな。あ、そうだ」
ポケットに手をつっこんで、手のひらに銀貨2枚取り出して、っと。
「これ、宿代です」
「あぁ、ありがとうよ」
「それで、冒険者ギルドって、ここにありますか?」
「あぁ。それならここを出て――」
最初に右へ曲がった十字路を逆に左折。ここからだと真っ直ぐ抜けたらいいだけ。目標は同じように、赤煉瓦のモザイク柄になった壁の建物を探せばいいらしい。そういや、ここの町の名前、聞いてなかったな? ギルドで聞けばいいか。
町には街灯があるわけじゃない。それでも営業中な建物には、入り口を照らすようなスポットライトにも似た明かりが灯ってる。そのせいか、しっかり見ていないと赤煉瓦を見逃してしまう気がした。
けれどそんな不安は
「あ、ここだ。あれ? ドアが開いてない」
ドアノブはついているけれど、回したりする感じじゃない。とりあえず、ドアを押してみると、よかった、開いたよ。ギルドの中は思ったよりも明るい。ダイオラーデンのギルドと違って、入って右側に受付があるみたいだ。
カウンターには人が立ってない。けれど、つまんで振るタイプのベルが置いてある。なんだかお金持ちのお屋敷で、使用人さんを呼ぶベルみたいだな? よく見ると、『ご用の方は鳴らしてください』と書いてある。ベルをつまんで振る、すると大きさからは考えにくいほど低い『カウベル』のような感じだったけれど、耳触りの良い音が鳴ったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます