第4部 エンズガルドの向こう側。

第150話 ジャムさんとの連絡方法の模索してたら。

「――そうなんですか。なるほど。そのような手法があるんですね」


 冒険者ギルド、エンズガルド支部支配人室。昨日麻夜ちゃんと話していた『伝声管』のことを、虎人族の支配人ジャムリーベルことジャムさんにも説明していたんだ。


「確かにこの距離で飛文鳥ひふみちょうを使うわけにはいきませんね。そもそも、一度飛ばすのに麦粒魔石が1つ必要なものですから……」


 俺の目の前のソファに近い椅子に座っているジャムさん。彼はプライヴィア母さんよりもっと背も高いんだ。どれくらい高いかって、俺はかなり見上げなきゃならないくらいなんだよね。

 もしかしたら虎人族だけに猫背になりやすいのかもしれないけどさ。ジャムさんはなるべく俺に目線を合わせようと、背中を丸めてくれてるんだと思う。それでも俺は常に上目遣いしてる感じなんだけどね。


飛文鳥それはコスパが悪すぎるのよねん」


 ジャムさんが猫背気味みたいな感じだから、麻夜ちゃんが背中に乗りやすいらしく。彼女が彼の頭の上から覗き込むようにしながら、会話に参加してるんだよね。


「はい。その『コストパフォーマンス』でしたか。確かに悪すぎますね」


 ものすごく知識欲が強くてさ。ジャムさんは本が好きらしいんだ。俺たちが話すあちらの世界の言葉に興味があるんだって。

 さっき麻夜ちゃんが使ったコスパが、コストパフォーマンスの略だって覚えたのもつい最近。ジャムさんは一応、ここの上位貴族の長男だけど、俺たちのほうが立場は上だからか、俺たちに気を使わせないために勉強してくれてるのかもしれないんだ。

 俺と麻夜ちゃんは公爵閣下の子息、息女だし。それに俺はほら、エンズガルドの王位継承権第三位持ちだし。それもあるのかもなのは、俺も知ってる。十分理解してる。


 その上で俺は『ジャムさんに友人であってほしい』だなんて無理難題を言ってる。そんな俺の希望に添ってくれようとしてる。ものすごくありがたいと思ってるんだ。


「でもさ、ジャムさんたちが城下にいるとき、急ぎの連絡を取ろうとするならどうするもんなの?」


 ジャムさんは考える仕草もしないで即答。


「私は一応、貴族の末席にいますので、家の者に使いを頼むことになりますね」

「あぁ、なるほどね」

「予想通りの答えキターっ」


 麻夜ちゃん、ジャムさんの頭の上で両腕を突き上げてアピール。いやまじで絶妙のバランス感覚。よく落ちないね、ほんと。


「あれ? んでもさ。俺、ジャムさんの家の人って会ったことないよ? ジェフィさんとのやりとりもさ、ジェノさんから言伝があっただけで。麻夜ちゃん知ってる?」

「うんにゃ。知らないですよー」

「だよねぇ」

「あー、そのことですね。私や下の姉様はまず、家の者に指示を出すんです。そのあと、上の姉様に家の者が伝えるというかたちで、連絡を取り合っています」

「あれ? あぁ、そういう」

「『伝言ゲーム』状態」

「うん。まるで時代劇みたいだね」

「麻夜も思った」


 時代劇によくある忍者っていうか、お庭番っていうか。天井裏かどこからか『すたっ』と降りてきて、小声で報告受けとったりのあれだよね。


「でもさ、そんな手段で急いでるときに間に合うものなの?」

「そうですね。お二人がお持ちのスマートフォンのように、リアルタイムで連絡をとるのは難しいです」

「だよね」

「ですが、マヤ様が選んでくれましたこの1分砂時計で」


 うん。俺たちも見てすぐに砂時計だってわかるもの。これ、色々大きさがあって、なんでも麻夜ちゃんが1分になりそうなものを選んだらしいんだ。


「2度返す前にはお伝えできるかと思います」

「え?」

「2分?」

「そう、なりますね」

「まじですかー」

「まじですかー」


 直線距離で890メートルだよ? いくら走ったからって、どんだけなのよ?


「驚かれるのも無理はないですね。当家の者は私たちと同じ虎人族と猫人族です。彼らはその、建物の上を走って飛び越えて行きます。階段を上り下りする方が、時間がかかると聞いておりますので」


 そう言って笑うジャムさん。


「どこのスーパーヒーローですか」

「うんうん、確かに」


 麻夜ちゃんも俺も、ある洋画のヒーローを思い浮かべたはず。あのビルとビルの間を翼で滑空しながら自由に行き来する彼ね。


「俺たちもさ、今日からセントレナに送ってもらうことにしたから、あっという間に到着したんだけど。さすがに2分は無理だよね」

「うんうん」


 中庭から飛び立って、神殿の屋上へ。治療終わったあとは、そのままギルドの屋上へ。


「そういやさジェノさん、渋ってたな……」

「ちょっとかわいそうだったよね」


 俺たちが治療してるときはセントレナ、神殿の屋上で眠ってたみたいだし。今もここの屋上でまったり伏せて待ってくれてるんだ。

 神殿のときにさ、『帰ってていいよ』って言ったんだけど。セントレナはその場に伏せちゃって目を閉じて動こうとしないんだもの。仕方なく待っててもらったんだよね。


 セントレナのおかげでジェノルイーラさんはお役御免。まぁ元々はマイラヴィルナ陛下のお付きみたいなものだったらしいし。今日からは屋敷にいてもらってる。

 マイラ陛下はあれ以来ずっとプライヴィア母さんの屋敷に寝泊まりしてて、王城に戻ってないって話だからね。ジェノさんもこっちへ通ってるって聞いてるよ。


「その『伝声管』でしたか。どのような――」


 俺はうろ覚え。麻夜ちゃんは知りうる限り。二人分の情報を会わせて、ジャムさんに説明する。

 紙にペンで簡単な図解。麻夜ちゃん案外絵がうまいんだね。フリーハンドだけど、ちょっとした図面みたいな感じに書けてる。


「ここの太さはこれくらいだったはずなのよねー」

「わかりました。問題はこの直径の丈夫な筒をどこまで長く作れるのか?」

「そうなのよねん」

「では、私に心当たりのある地属性の使い手をあたろうと思います」

「え?」

「いるの?」

「はい。エンズガルドの王城や、この町の建材を作っているのは地属性の魔法を使う職人なのです」

「まじですかー」

「まじですかー」


 俺と麻夜ちゃんが話していた世迷い言たとえばなしが、まさか本当にあり得るかもしれない。そんな話だったから驚いたわけで。まぁそんなこんなでジャムさんを交えて軽い打ち合わせを終えて、俺と麻夜ちゃんはギルドの屋上へ出てきたんだ。


「うぉっ、さむっ」

「寒いねー、セントレナたんは大丈夫なのん?」

「うん。俺がおっちぬマイナスな上空でも平気だったからね」

「まじですかー」

『くぅ?』


 ぬくぬくな外套を羽織って、俺と麻夜ちゃんはお屋敷に帰るべくセントレナの背中に乗る。うは、あったか。


「セントレナたん。あったかー」

「うん。確かにお尻の下があったかいわ」


 別に魔法を使ってるわけじゃないんだろうけど、彼女のこの羽毛があったかく感じさせてくれるのかもだね。


『くぅ』

「うん。大丈夫。それじゃお願いね」

『くぅっ』


 俺と麻夜ちゃんはセントレナの背中に乗って、夜空へ飛び立っていったわけなのよ。すぐ到着するんだけどね。

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