第126話 忙しい一日 その5。『累積で』
『個人情報表示謎システム』の呪文一覧にある『
もう何日もの間、『
「そういやさ」
『くぅ?』
「セントレナも魔素を使うの?」
『くぅっ』
セントレナは『そうだよ』という感じに返事をしてくれる。もう何度となくこんなやりとりをしてるから、彼女がそんなニュアンスで言ってるんだろうって、なんとなーくわかるんだよね。
「まじですかー、ならこれ必要じゃないの。『
『くぅ? くぅ? くぅ?』
何か驚いてるっぽい。どうしたんだろ?
『くぅっ』
大きく羽ばたいたかと思ったら、背中から押されるような更なる浮遊感が感じられた。
「え? まさか飛ぶのに魔素使ってたりするの?」
『くぅっ』
「そうだったんだ。身体強化か、それとも風系の属性魔法か? とにかく、飛びやすくなったのは事実?」
『くぅっ』
おぉ。あっという間にさ、王城が手のひらに乗るくらいの大きさに見える高さになってるわ。いや、
「そしたらさセントレナ」
『くぅ?』
「限界ギリギリの高さまで上がってみてくれる?」
『くぅ』
おぉ、まだ上がれるのか? どんよりした重たい雲が見えては追い抜いてく。まだ時間は5時になってないけど、上空はまだこんなに明るいんだな。
いやそれにしたって、高くなるにつれて寒いこと寒いこと。あれ? 俺の生命力ゲージ、減ってない?
「あ、やべっ、一気に減ってる。なんで? あ、もしや、うわ、寒さか? ちょっとセントレナさん」
『くぅ?』
気持ちよさそうに上昇を続けてる。もう、王城は見えなくなってた。やば、ゲージが半分切ってる。どういうこと? 寒いというより痛い。あ、そういうことか……。
「ちょ、セント、レナ、さん。すとっぷ。おりて、さむい、こおっちゃうから……」
気づいてくれた。慌てて降りてくれてるけど、……あ、ちんだかも――
ほんの10秒くらいのはず。それでも生命力のゲージは1割くらい。被ダメージ累積で0になって死んでも、蘇生の瞬間1割程度には戻ってくれるんだ?
「『
『くぅ?』
「うんごめん。さすがに予想以上過ぎたわ。俺のせいだから気にしないで」
『くぅ……』
このくらいの高度だとピリピリするくらいの寒さ、というより痛さかな?
「このくらいの高さ、覚えられる?」
『くぅっ』
「セントレナは、寒さってか痛さ感じなかった?」
『くぅ?』
「大丈夫だったんだ。強いね」
『くぅっ!』
たしか、数十? いや、百数十メートル上がるごとに、1度下がるとかだっけ? 冬場で外気温が10度なかったとして、一気に氷点下だったのか? ジャンボジェット機とか、巡航してるときマイナス40度とか聞いたことあるもんな。
冷凍庫で作業とかする人いても、こんな外套だけの軽装備では無理でしょ? そこまでいけば、確かにヤバいわ。
「ここからさ、一気に速度を稼げば、前よりも速く飛べそう?」
『くぅっ』
「そっか、それならこれを繰り返してくれるかな? 疲れたら教えてね?」
『くぅっ』
「俺がヤバそうなら、こっちをこうして首叩くからさ」
セントレナの右側の首元を軽く叩いた。
『くぅっ』
「それじゃ、ワッターヒルズまでお願いします」
『くぅ』
セントレナは翼を折りたたんで、まるで落ちるかのように急降下していく。
「ひょぇえええええっ、すっげぇーっ!」
『くぅっ』
ある程度速度が乗ったところで、翼を開いて滑空状態に移る。遠くに山とかがみえるんだけど、明らかにこの間エンズガルドへ来たときより速いような気がする。
セントレナは滑空しながらも時折翼を動かすとさらに加速していく。
『くぅ』
「魔素のほう?」
『くぅっ』
「おっけ、『マナ・リカバー』っと。ついでに『
『……くぅ』
▼
「すげぇ」
『くぅ、くぉお』
『個人情報表示謎システム』上の時間は6時半あたり。セントレナが2度ほど魔素切れ状態になったあたりで、晩ご飯休憩。ダンナヴィナさんに持たされたお弁当は2段になってた。下の段はセントレナの分。上は半分俺のね。
両手のひら合わせてもまだ足りないくらいの、馬鹿でかいステーキ。薄味だけど、俺の弁当にも入ってる脂身の少ない肉使ってるんだ。セントレナのほうは薄味。俺のほうはあの『エビマヨ味』のソースがかかってる。
セントレナは大口開けて待ってるから、半分くらいに切って食べさせる。厚さがまた凄い。3センチくらいあるかな? それが5枚入ってたんだから、ずっしり重たいわけだよ。
これ、毎回食べてるのか。肉だけじゃなく、たまに魚も食べさせてるって言ってたっけ? 俺があげるパンはおやつなんだなって改めて思ったよ。
『ぅくぅ』
満足そうに伏せて一休みしてる。座ってる姿はほんと、ニワトリそっくりなんだよね。体高2メートルを超えるニワトリそっくりな竜。どんだけファンタジーなんだってね?
30分ほど食事休憩とって、また移動を開始。今度はセントレナにマナ茶を飲ませてみったんだ。
「大丈夫か? お腹痛くならない?」
『くぅっ』
ほんのり甘くてスッキリとしたお茶。難点はお高いだけで、ギルドの予算で買い込んでるから飲み放題なんだけどさ。
「どうだ? 魔素が戻ってる感じする?」
『くぅっ』
「『マナ・リカバー』。これでどうだ?」
『くぅっ! くぅっ、くぅっ』
セントレナもマナの戻り方に驚いてるみたいだ。すぐに背中に乗れとせがむんだよ。俺は鞍に跨がって手綱を握る。すぐに走り出すかと思ったら、その場から羽ばたいて上昇を始めた。
そこでなんと、上昇気流らしきものにあっさりと乗っちゃったみたいで、気がついたら『寒い』が『痛い』に変わるぎりぎりの高度まで上がることができたみたいだ。さっきより、半分くらいの時間しかかかってないように思える。
『くぅっ』
「はいよ。振り落とされないように、首の近くに身体を伏せてと、いいよ」
『くぅっ!』
そこから翼を収めた状態で落ちるように急降下、やや翼を出すと徐々に水平滑空へ移っていく。
「すげー、速い速い」
『くぅっ』
途中、定期的に『リカバー』をかけつつ、『マナ・リカバー』を切らさない程度にかけ直して、魔素が枯渇に陥らない状態を維持し続けた。
すると、これは驚いた。『個人情報表示謎システム』上の時間で10時前。見覚えのある明かりが見え始めてきたんだよ。
上空を軽く旋回しつつ速度を落として、周りに影響がないように屋敷の庭へ降りていく。なるほど、屋敷の庭の一角に、何やら基礎のようなものを打ち込んでるように見える。きっとセントレナの厩舎を作ってくれてたんだろうね。
何て思ってたら、たまたまなのか? 屋敷の表玄関からコーベックさんと、ブリギッテさんが出てきたじゃないか?
「ご無事でしたか? お館様」
慌てて走り寄ってくるコーベックさんとブリギッテさん。俺はセントレナの背中の鞍から降りると、ブリギッテさんにセントレナをお願いした。
「ブリギッテさん。セントレナも
俺はインベントリから、昨日使った布をどっさり手渡した。
「はい。お預かりします。セントレナさん、いきましょうか?」
『くぅっ』
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