第41話 久しぶりの……。
朝目を覚まして、俺は日本にいるときぶりに、頭を抱えた。
「――のぉおおおおおっ!」
頭痛、吐き気、体中の倦怠感。
「……う゛あ゛ぁあああ」
久しぶりの二日酔い。昨日は飲み過ぎたみたいだ。
「――あ、『
思い出すように頭の両側。手のひらを両側のこめかみあたりにで抱えるようにして、そう唱えたら、二日酔いがあっさりと抜けた。
「いや、ちょっとまて。これって虫歯と同じで、『飲んだことがないことになる』ってことはないよな? そんなだったらもう、風情も情緒もなんもあったもんじゃないわ……、でもこりは無敵すぐる。酒場でこれがあれば、稼げるんじゃないか? って、俺は十分稼いでるか。使い切れないくらいに……」
昨日俺は、遅くまでロザリアさんと飲んでたはず。けれど、途中で記憶がなくなり、この部屋へどうやって帰ったかがさっぱりわかんない。日本にいるとき、飲んで記憶をなくしたことが、……あるにはあったけど。それは学生のころだ。社会人になってからは、飲み方を、適量を覚えてるから。ないはず、だぞ?
風呂のあとすぐに、寝間着に着替えたからそのままだし。少なくとも、『すっぽんぽんで三点着地』してたなんて、麻夜ちゃんに笑われるたときみたいな、
『個人情報表示』をさせると、画面にあった魔素量が半分になってる。ずっと続けてる、魔素量底上げ鍛錬法の『
「とりあえず、『マナ・リカバー』っと」
インベントリから、マナ茶を取り出して一気飲み。二日酔いの身体には効きそうなほどに染み渡る。二日酔い、消えちゃったけどね。
「おぉおお、みるみるうちに魔素が回復していく。はんぱないわ。おもしれぇ」
もそもそとベッドから抜け出して、おぉう……、朝はさすがに肌寒いぜぃ。着替えて、よし、顔を洗いに、と思ったとき『こんこん』と部屋のドアがノックされたんだ。
『おはようございます、ご主人様。お目覚めになっておいででしょうか?』
「あーはいはい、おはよう。どうぞどうぞ」
着替え終わってるし、大丈夫だね。
「失礼いたします。朝食の準備が整いました。準備を終えたら、一階までよろしいでしょうか?」
「ありがとう。すぐにいくよ」
「はい。お待ちしております」
「あーそうそう」
「はい、なんでございましょう?」
「ロザリアさん、お酒飲み過ぎてさ、具合悪くなってない?」
「はい、別に平気でございますが?」
「まじか。強いんだな、きっと」
酒豪か? それとも、あの程度では酔わないのかもしれないな。どちらにしても、かっこ悪い姿を見せないようにしないとね。うんうん。
「では、一階でお待ちしていますね?」
「あはい。わかりましたー」
彼女の声だけがすーっと、離れていく。何だろう? お貴族様や、どこぞの旦那様にでもなった気分だよ。うはぁ、なんだか背筋がむずむずするわ。
風呂場で湯をすくって、脱衣所の洗面台で顔を洗う。インベントリからタオルを出して、拭って終わり。水も出して、口をゆすいで、タオルのはしっこをぬらして、指に巻いてごしごし。そういや、歯ブラシと歯磨き粉探さないとだなー。なんとなく、磨き足りないからさ。色々伝わってるくらいだから、それくらいはありそうなんだよね。
俺、こっちの世界に来て、回復魔法使えることがわかってさ。たまたま、俺の奥歯に激痛が走って、反射的に『
再生ってなんだろう? こんなのも直るのかな? って歯に向けて『
もし、俺がこのまま日本に戻れたとしたら、歯医者さん、潰れるね。間違いなく。歯並びはどうにもならないっぽいかな? もし、俺が『理想的な歯並びを脳裏に描けるなら』、試してみてもいいかもだけど。そんな機会はないと思うんだ。
この国に、虫歯があるのか、ロザリエールさんに聞いてみようかなとは思ってるけど。そんな余裕は今のところありませんよねー。
ロザリアさんと昨日一緒にお酒を飲んだ、
ロザリアさんが椅子を引いてくれて、これって彼女にとって当たり前なのかな? って悩んだんだけど。今はとりあえず、素直に座ってみる。確か昨日もそうだったんだよね。
すると目の前には、これまた立派な朝食。お皿の上には、軽く湯がいた葉菜かな? 生で食べられるかわかんないんだよね。それに、油と塩と香辛料で作った手作りらしいドレッシングがかかってる。
その横に、細長く切った表面をカリカリになるまで焼いてある、何かの獣の三枚肉っぽい部位。それが、5ミリ程度の薄切りになっていて、実に美味しそう。なんとその横には、目玉焼き。こっちにも卵、あったんだね。何の卵かはわかんないけど。
薄く切ったパン、これも両面綺麗にきつね色になるまで焼いてある。そこにバターなのかな? 何かが塗られてる。香ばしい香りが鼻へすぅっと立ち上ってくる。食欲がそそられるってこういうことなんだろうな?
「これ、食べてもいいの?」
「えぇ。ご主人様のために、腕を振るわせていただきました。朝食ですから、たいしたものではございませんが」
ロザリアさんは謙遜してるけど、立派だよ。必要十分以上の、立派な朝食だよ。
「いただきます」
俺は手を合わせてスタンダードな『いただきます』をする。
「食事でも、そう言われるんですか?」
あぁ、『お湯をいただきます』とごっちゃになっちゃうんだな。えっと。
「そうだね。これは料理を作ってくれた人、食材を提供してくれた人に感謝の意味も含めて、かな?」
「『いただきます』に対して、なんと返事をしたらよろしいのでしょうか?」
「そうだね。ロザリアさんが言うならんー、『どうぞ、召し上がってくださいまし』かな? いや、それだとちょっと大げさになっちゃうから、それに、『いただきます』に対する返事だから、『はい』だけで、いいかもしれない」
「では、はい」
「うん、なんかほっこりするな。いただきますっ」
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