第193話 ここがまさか、龍人族さんのとこ?

「あ。ということはさ、聖女様と呼ばれる人がいるんじゃないですか?」

「えぇ。お目にかかったことはありませんが、大公殿下のご息女だと誰もが知っています」

「大公殿下のって、それ、お姫様じゃないですか?」

「はい。他の国ではそうなるかと」


 王国じゃなく公国か。そうだよな? 普通ならうちみたいに公爵閣下だろう? それを大公殿下だから、間違いないと思うよ。


 なんと、てことはあれだ。最近までわざわざお姫様が浄化に来てくれてた。そういうことじゃないか? あれ? おかしくね? なんでわざわざ? これ少し調べる必要あるんじゃないの?


「そういえばですよ」

「はい」


 このガルフォレダくん。乗り心地が凄くいいんだ。まるでセントレナの背中に乗ってるみたい。ほんと、優しく滑空してるよね。

 数歩飛んではふよふよと。主人のフェイルラウドさんを思ってそうしてるんだと思うんだ。


「アールヘイヴってどれくらいの大きさなんですか?」

「そうですね。……あの岩山ありますよね?」

「はい」

「あれをぐるっとほぼ一周、すべてになりますね」

「そ、それってかなり広大なんじゃ?」


 遠くに見える岩山、というより巨大な円柱。直径何キロあるんだ? ってくらい馬鹿みたいな大きさ。あれをぐるっとって……。


「そうでもありませんよ。こんな感じに村や町が点在していますし、国土のほとんどが畑ですからね」


 確かに、さっきのピレット村も、畑は凄かったけど家の数はそんなでもなかった。ぱっと見、三十くらいあればいいほうだったかな?

 確かにこうしてガルフォレダくんの背中から見ても、近くの建物なんて見えやしない。かなりの速さで滑空してるはずなんだよ。まぁ、あの岩山も端が遠くに霞むくらい馬鹿でかいんだけどね。


 そういや、穀物なんかを浄化の報酬として購入させてもらってるって聞いたような? 国土の割にあまり裕福じゃないってことか? だからお姫様がわざわざ他国で活動してた? んー、よくわかんないわ。


 こうしてみると、ところどころうっすらと雪積もってるんだな。多分1センチくらい? 辺り一面雪景色。久しぶりに見たな。こういう光景。


 お、何やら景色の端に見えてきた。走竜って凄いねやっぱり。というよりこのアールヘイヴが広大過ぎるんだよ。それよりなにより、左側にずっと見えるあの岩山、壁にしか見えないし、上見ても天辺あたりが見えないんだよな……。


「あれがザイストの町です」


 ガルフォレダくんは丁寧に着陸してくれる。あ、荷車は別ね。すっごく荒っぽい。だからベガルイデが目を覚ましたみたいだわ。

 ガルフォレダくんが伏せてくれたから、背中から降りる。フェイルラウドさんは背中を撫でて労ってる。


「ガルフォレダ、お疲れ様」

『ぐぅ』


 俺もフェイルラウドさんのように背中を撫でたんだ。ついでに治療を少々。


「『ディズ・リカバー』、『フル・リカバー』」


 『リジェネレート』はほら、プライヴィア母さんでも驚いたくらいだから、飛びすぎに気づかないと危険だしとりあえずやめとこ。


『ぐぅ?』

「どうしたんだ? ガルフォレダ」

『ぐぅ?』

「お疲れ様。ガルフォレダくん」

『ぐぅ』


 届く範囲の背中を撫でる。羽の色は違っても走竜。セントレナたちと同じなんだよね。だから身近に感じるんだ。


 あ、こいつも忘れない。目隠し猿ぐつわだから何も見えないだろうけど。


「今度は漏らさないようにっと、『レヴ・ミドル・リカバー中等症』」

「――ぐっふっ……」

「うん。気絶したっぽいな」

「本当に、容赦ないですね」

「あははは」


 ザイストの町手前で降りたのは、道幅はあるけど人も歩いてるから。ガルフォレダくんに乗ったまま移動するのはちょっとと思ってる、フェイルラウドさんの考えなんだろうね。きっと。


 俺たちの後ろをてってこ歩いてくるガルフォレダくん。荷車の上のベガルイデは大人しく気絶中。

 細かい雪が舞ってるから、視覚的にもかなり寒く感じる。それでも歩く人たちは厚着だけど、元気そうに行き来してる。

 彼らはガルフォレダくんを見ても驚いたりしないけど、荷車に乗った荷物は珍しそうに足を止めて見るんだよ。それこそ、あっちの世界でゴミ捨て場を荒らす黒い鳥みたいな感じなのかな? フェイルラウドさんも言ってたからそんな扱いなんだろうね、こいつらってさ。


 行き交う人々の誰もが翼を出しっぱなし。鈍感だって聞いたとおり、寒さ冷たさもそうなのかな?


 ベガルイデが目を覚ましたらまた魔法を叩き込む準備をしつつ、ガルフォレダくんの背中を撫でながら俺はフェイルラウドさんの後ろをついていく。すると周りは二階建ての建物が多い中、平屋で比較的敷地面積の広い建物が見えてくる。


「こちらが目的地ですね。私たちが数日に一度集まって情報を寄せ合う詰め所として利用しています」

「なるほど、ここがそうなんですね」

「はい。私も数日後にはここへ訪れる予定でしたが、まさかのベガルイデ捕縛ですから」

「……ぐぁ」

「あ、目を覚ましやがった。『レヴ・ミドル・リカバー』っと」

「――ぶっふぉ」


 また気絶。今度は漏らさないように手加減したけど、『レヴ・ミドル・リカバー』一回だけという適当なやつね。


「容赦ないですよね、本当に……」

「一応、恨みがありますからね」


 裏手に回って両開きの扉を開ける。そこは半分納屋になっていて、その奥が他の部屋に繋がるドアが見える。


「ジルビエッタが戻っているみたいですね」


 赤い羽根の走竜、首元に白いワンポイントが入ってる子が伏せてこっちを見てる。


『くぅ?』

『ぐぅっ』


 きっとあっちが女の子で、ガルフォレダくんが男の子なんだと思うんだ。声の質がセントレナとアレシオンに似てるからね。

 まずは地下へ続く通路を降りて行く。台車風の荷車引いたまま降りられるわけね。見事に荷物になってるベガルイデ。なんとも惨めだねぇ。


「ところでタツマさん」

「はい、なんでしょう?」


 フェイルラウドさんはどっこいしょとベガルイデをひっくり返す。手を掴んで確認してるんだ。

 彼は俺と同じくらいの身長だけど、俺より体格はいい。村の部隊長さんだけはあるね。


「この悪素毒ですが、どれくらもつものなんですか?」

「そうだね。これくらいなら十年は持つでしょう? 痛みに耐えられたらですけどね」

「なんとも、ぞっとしますね……」


 あ、ちゃんと牢屋があるんだ。鉄格子をあけて、ベガルイデをずるずるとひきずって投げ入れる。がしゃりとまた閉めて終わり。


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