第67話 厄介な魔道具だね?
ちょっと落ち込み気味なロザリエールさんに横乗りしてもらって、後ろから俺も乗せてもらう。手綱を握って準備完了だね。
「よし、お願いできるかな?」
『くぅ』
少しだけ走って、音もなくジャンプ。ひとつ羽ばたいて、軽く滑空。見事なものだね。とても、プライヴィアさんに聞いた話みたいに、羽ばたくのが苦手には思えないくらい。
歩くとかなりある距離を、馬車でもそれなりの距離を、彼女ら走竜はこんなにもあっさりと繋いでしまうんだ。元々滑空しながら進むのに慣れてるんだろうね。飛行距離が伸びてるっぽい今でも、元いた場所へ戻るのは難しくないみたいだ。
少しだけ開いてる厩舎の扉。そこから漏れる光が目印。すぅっと滑るように着地。
『ぐぅ』
アレシヲンがお出迎え。
『くぅ』
伏せて下ろしてもらって、外への扉を閉じて、元来た通路を戻ることにする。
「ありがとう、セントレナ。楽しかった。それじゃ、おやすみ」
『くぅ』
「アレシヲンも、おやすみ」
『ぐぅ』
「ほら、帰ろう。ロザリエールさん」
「は、はい。セントレナさん、アレシヲンさん、おやすみなさい」
『くぅ』
『ぐぅ』
ロザリエールさんは相変わらず、元気がないように思えるんだ。それは仕方ないだろうな。俺だって意表をつかれた気がするくらいだから。ずっと目標にしてた彼女には、少々酷な結果だったと思うんだ。
それにしても、この国が作ってこの国で運用されていて、実績があるはずの魔道具『魔石中和法魔道具』は、魔石を動力として悪素を中和してくれるものだと思っていた。けれど、その予想はあっさりと覆されることになりそうだった。
インベントリにそうだと思われる魔道具を格納して、その名称を表示させてみたところ、斜め上の結果が待ってるとは思わなかったんだ。あくまでも『個人情報表示』のシステム構築した神様、女神様の解釈によるものとしか思えない結果だったけど。魔道具は『連続解毒効能魔道具』と表示されたんだ。
俺がつい、そのことを口に出してしまったものだから、ロザリエールさんが動揺しちゃって、ちょっとばかり困った状況になってた。無言のままとぼとぼと俺の後ろをついてくるロザリエールさん。食事の前に、俺の部屋で明日からの相談をすることになって、俺の部屋にいまここという感じ。
「……落ち着いた?」
「はい、申し訳ございません。あの程度でその」
「仕方ないって。長い間、それを目標に頑張ってたんだから」
「それでもやはり、目にしたことがないものに
「うん、ロザリエールさんが大丈夫っていうなら」
「ありがとうございます」
テーブルの上が汚れないように布を敷いてから、インベントリから例の魔道具を取り出した。両手のひらの上に乗せてみたけど、あって1キロ、それくらいの重さしか感じられない。
目算だけど、縦横同じサイズで5~60センチくらい。高さは20センチくらいかな? 木製だとは思うんだけど、何かの処理がされてると思う材料で組まれてる箱。
上蓋が四辺から斜めに組まれていて、上がすり鉢状になってる。横を見ると、底近いところに四カ所吐き出し口みたいな穴が開けられてる。おそらくは、上から吸い込んで処理をさせて、下から吐き出す感じなんだと思うんだ。
湖から伸びてた水路が、この魔道具が沈められていた集水升と思われる場所があって、その先には水路は延びていなかったんだ。明るいときに見ないとはっきりとはわからないけど、あの集水升の底あたりから、水を取り込む場所があるんだと思う。
そこから上水道のようなもので、王城や各貴族家などへ水を運び、その余りを城下へ流していたんじゃないか? と俺は予想するんだ。じゃないと、説明がつかないんだよね。
あの集水升で魔道具を使って水を中和――いや、解毒をしてたとするよ? それなら、わざわざあの場で桶なんかを使って水をくみ上げなきゃならない。いくら暗かったからとはいえ、そんな機材も痕跡も見当たらなかったから。
まぁ、魔道具が止まったという昨年末に撤去したなら、あの状態なのかもしれない。でもそれならさ、城下に水をどうやって配ってる? そうなるんだよね。
「なんかさ」
「はい」
偶然とはいえ、格納したとき限定で、システム上における物体の正式名称を調べることができてしまった。テーブルの上にある魔道具がそれで、『連続解毒効能魔道具』。
インベントリに表示されたその魔道具が、そう命名されてしまっているのは避けられない事実だった。ということはだ。件のお貴族様閣下の家の指示で改造されたこの魔道具は、悪素を中和なんてできなかった。
ただ、その悪素をわずかながら解毒することができたかもしれない。けれどそれが本当かどうかを検証するためには、悪素が解毒されたということを確認できる誰かがいなければならないというわけだ。厄介だ、実に厄介極まりない。
そもそも、どこに魔石が取り付けられて、どう動く魔道具なのかも、こう目の前に置いていながらさっぱり俺もロザリエールさんもわかりゃしないんだ。
「こうしてみるとね、ある懸念だけがでてくるんだよ」
「はい。あたくしも、ひとつございます」
「本当に水を」
「解毒できていたのか、でございますよね?」
「やっぱりそう思ったんだ?」
「えぇ」
おぉう。同じ事考えてたよ。俺とロザリエールさん。
「あ、あははは」
「うふふふ」
極論に至ってしまったからこそ、今の俺たちにはどうしようもないこともわかってしまった。
「ここにさ、コップが二つあるとするよ?」
「はい」
「片方には悪素を含んだ水」
「もう片方には、魔道具で解毒されたはずの水、ですね?」
「そう。最初のグラスの水には『本当に悪素が含まれているのか?』」
「はい。後のグラスの水には『本当に解毒されているのかどうか?』」
「それを調べる」
「手立てがございません」
「うん。手詰まりだね、とりあえず」
「はい。その通りでございます」
これを動かすためには、どの部分にどれだけの大きさの魔石が必要になるのか? 実際、動いてるところを見たことがないから、どうすることもできやしない。
おそらく、この魔道具を改良したのは『ハウリなんとか』の父親の世代だろうし、魔道具が魔石が切れて自然と止まったのか、それとも止めた人がいたのかも、予想ができないんだ。かといって、死んでしまった人に聞くわけにもいかない。
「これをさ、ワッターヒルズに持ち帰って、うちの人たちに解析をお願いするのが一番の近道だと思うんだ」
「えぇ、そうですね」
「その上で、晴れて動かすことができたとして、どの程度悪素を毒として解毒できているのかは、俺たち確認のしようがないんだ」
「はい」
「そこでさ、俺はその水がどう変化したかの検証作業をね、麻夜ちゃんにお願いしようと思うんだよ」
「あの、王城にいた勇者の少女のことでしょうか?」
「うん。彼女はさ、『鑑定』のスキルを持ってたんだ。自分の身体にあったはずの『悪素毒が消えてる』って言ったでしょう?」
「そういえば確かに……」
その検証を行った上で、出力が足りていないからプライヴィアさんが契約しなかったのか? その出力をどうすれば上げることができるか、なんかを検証してもらえばいいと思うんだ。
「この魔道具がさ、使い物になるってんなら、複製してもらっちゃおうよ?」
「はい。それは名案かもしれませんね」
麻夜ちゃんの協力は、何か条件をクリアしたらいけると思うんだ。コーベックさんたちなら、この魔道具を解析できそうだって言うし。
このダイオラーデンにとって、魔道具に使用する魔石がどれだけ高価だったのか? 諦めなければならないほど、この国の相場では高いものだったのか? それはまずは見極めなければならないね。
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