番外編 〜バレンタイン〜 前編
「瑠奈ー!」
二月十三日の放課後。一年A組の女子はやけに騒がしい。
中江詩乃は帰りの用意をしている石橋瑠奈の元へやってきた。
「どうしたの?」
「あのね……」
詩乃は瑠奈に顔を寄せた。
「明日、チョコどうする?」
「っ!」
瑠奈の顔が一気に赤くなる。
「……今日作って、明日みんなに配ろうと思ってたけど」
「え、相賀君は?」
「そ、それは……!」
瑠奈はさらに頬を赤くした。
「う、詩は?」
「詩はねー、料理できないから買ったんだ!」
「ちょ、そんな大声で……」
あたふたしている瑠奈の元に、朝井雪美もやってきた。
「あ、雪美! 雪美は明日どうするの?」
詩乃の問に、雪美はほんのりと頬を染めた。
「うん、今日作って、明日あげようと思ってて」
「やっぱみんな作るんだー」
詩乃が羨ましそうに言う。
「それで? あきは光弥君に渡すんでしょ?」
長谷明歩は坂巻愛と菅田柚葉におちょくられていた。
「う、うん……。渡す、けど……。愛は?」
明歩は耳を真っ赤にしながら言った。
「竜一君に渡すの?」
「いや〜渡せないよー」
「渡しなよ!」
柚葉がすかさず叫ぶ。
「せっかくのバレンタインでしょ!? いいなぁ。二人共渡す人がいて」
柚葉は羨ましそうに言った。
辻香澄は、自席に座ってぼんやりしていた。
「どうしたの? 辻さん」
そこにやってきたのは佐東実鈴だ。
「実鈴ちゃん。……みんな渡す相手がいていいなって思って」
「いないの?」
「渡したい人はいるよ。でも渡せないもん」
実鈴はそっと微笑んだ。
「勇気出してみたら? 私も行くから」
「……ありがとう」
香澄はほんのりと頬を染めながら言った。
男子達は翌日のバレンタインなど気にしていなかった。
「おめでとう翔太!」
木戸相賀の声とともに、クラッカーが破裂する。今日、二月十三日は高山翔太の誕生日なのだ。
「……ありがとう」
翔太は慣れない様子ではあったが、嬉しそうに笑った。
「おめでとう高山君。はい、プレゼント」
安藤翼がラッピングされた箱を差し出す。
「え……ありがとう」
翔太は一瞬戸惑ったが、差し出された箱を受け取った。
「開けていい?」
「全然いいぜ!」
黒野慧悟がニコニコと言う。
箱の中には、シンプルな水筒が入っていた。
「わぁ……ありがとう!」
「高山が今まで使ってた水筒、結構塗装が剥げてたからな」
阿部光弥が言った。
「みんなで選んだんだぜ!」
相楽竜一が偉そうにふんぞり返る。
「何で相楽君が偉そうにしてるの」
「そうや。水筒にしよ言うたの安藤やんけ」
渡部海音と林拓真が冷めた目でツッコむ。
「えー、いいじゃねぇか」
竜一が笑い飛ばす。
翔太はオッドアイを細め、騒がしいクラスメート達を眺めていた。
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