第49話 休戦終了

「T、大丈夫か?」


 Aはしゃがみ込み、まだ座り込んでいるTに声をかけた。


「ああ……。だいぶ楽になったわ」


「……なぁ、さっきTを吹っ飛ばした奴って……」


「ああ、アイツや。気配もなくオレの側に来ててな……やられてしもたわ」


「そうか……。――そろそろ引き上げないとヤバいな。増援が来る」


 Aはホッとしたのも束の間、すぐに険しい顔をした。


「そうだね。ターゲットが運び出される時間だもんね」


 Uも頷き、立ち上がる。


 その時、何かがぶつかったような大きな音がした。


 振り返ると、アルタイルが壁に寄りかかって座り込んでいて、Rと伊月が鋭い目でアルタイルを睨んでいた。大きな音は、アルタイルが壁にぶつかった音だったのだ。


「言え! お前は誰だ!? 目的は何だ!?」


 伊月が怒鳴る。


「……」


 しかし、アルタイルは答えない。


「……まあいい。後で吐かせる。ところで……」


 伊月はRを見た。


「何?」


 Rが訊きながら振り返るのと、伊月が着ていたスーツのポケットから手錠を出すのは一緒だった。


「っ!」


 手錠に気づいたRは間一髪でバックステップで伊月から離れた。


「チッ、気づいたか」


 伊月が舌打ちをする。


「まさか、どうしてなんて思ってないよな? 元々お前に協力していない。言っただろう」


「……ええ、そうね」


 声色を変えたRが落ち着いて言う。


「でも、捕まるわけにはいかないのよ」


 言い放つと、伊月に向かって催眠弾と閃光弾を投げた。


「っ!」


 伊月が咄嗟に顔を腕で覆う。


 そして煙と閃光が消えた頃には、四人の姿は消えていた。


「……」


 伊月はT達がしゃがんでいた壁際を険しい目で見つめた――。



「まさか、あんな仕掛けをしてくるとはな……」


 アジトに戻った相賀はキッチンで紅茶を用意しながら呟いた。


「うん……。下調べの段階では出てこなかった」


 海音も神妙な顔で頷く。


「今まではっきり言ったことなかったよな。俺、盗みに行くときは予告状出してんだよ」


「え、予告状?」


 詩乃が目を見開く。


「ああ。でも近日とか、そういう曖昧な文面で、だ。しかも警察に届けてる。ターゲットを盗んだとしても、敵にそれを隠蔽されたら意味ないからな。だから知らせてんだ」


「え、待って」


 瑠奈が声を上げた。


「じゃあなんで、今まで実鈴とかだけじゃなくて、あいつらも来てたの?」


「……それなんだ」


 相賀は一層険しい顔をした。


「ずっと不思議に思っていた。けど、調べても何も出てこない。不確定要素を伝えても混乱するだけだと思って、言わなかった。けど、俺は――」


「警察の中に、奴らの仲間がいる。そう言いたいんでしょ?」


 海音が先回りして言う。拓真、詩乃、雪美が「な!?」「嘘っ!」「え!?」と声を上げる。


「……ああ。もっと広く言えば、警察に繋がってる人物。その中に、スパイがいる」


「そんな……」


 雪美が呟く。


「そう言っても、別にオレらが知っている人物とは限らないやろ」


 だいぶ顔色が良くなった拓真が口を挟む。


「そうだよね。全然知らない警部とかがスパイの可能性だってあるしね。……逆に言えば……」


 拓真の意見に頷いた瑠奈が、最後に小さく呟いた。しかし、それは誰にも聞こえなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る