第48話 一時休戦

 五分後。金庫内の煙が薄れてきた頃、金庫の扉が開いた。入ってきたのは、ガスマスクをつけた――大田伊月だった。


(……寝てるみたいだな)


 四人が倒れていることを確認した伊月はAの側にしゃがみこんだ。そして右手をAに伸ばす。


 その時、伸ばした右手を誰かに掴まれた。


「え?」


 Aが、起きていた。ニヤリと笑って伊月の右手を捕らえている。


 Aの口には、ミニボンベがついていた。


「……気づいていやがったか」


 Aはそれには答えず、掴んだ伊月の腕を引っ張り、そのまま背負い投げした。


「くっ!」


 床に叩きつけられそうになった伊月が両腕を広げて受け身を取り、すぐに起き上がる。その時にはA以外の三人も起き上がり、開きっぱなしになっている金庫の扉に向かって走っていた。


「逃がすな!!」


 ガスマスクを脱ぎ捨てた伊月が扉の方を向いて怒鳴る。


 先頭を走っていたRが、金庫の外にいる人影に気づいた。


「はああっ!」


 まず一人を吹っ飛ばしたRはさらに別の人影に回し蹴りを食らわせた。


『そいつら……警察だ!』


 Kが叫ぶ。


「うっ……」


 突然、最後尾にいたTがバランスを崩した。足がもつれ、壁に寄りかかる。


 気づいたUが「大丈夫!?」と駆け寄ってきた。


「あ、ああ……。煙を吸ってしもたみたいやわ……」


(まずい!)


 掴みかかろうとする警察を避けながらAは歯噛みした。


(Tはダメージを受けてたからミニボンベをつけるまで息を止められなかったんだ! ――待てよ)


 Aははたと気づいた。


(普通の警察が、一発でTにあれだけのダメージを食らわせられるのか?)


 Tはガタイが良く、いろんな部活の助っ人に呼ばれることも相まって筋肉がついている。チラリと横を見ると、Rが警察の蹴りを腕でガードしている。


(Rがガードできてるんだ……。不意打ちだったとしても、Tがあれだけ吹っ飛ぶ訳はない)


 だったら、誰が――。


(……まさか!)


 Aが顔色を変えたと同時に、Yが叫んだ。


『皆逃げて!』


 Yの悲鳴のような叫び声と共に、まだ倒されていなかった警察が一気に吹き飛んだ。


「な!?」


「……来やがったか」


 Rが目を丸くし、Aが苦虫を噛み潰したような表情をする。


 二人の前に立っていたのは――アルタイルだった。


 RとAはミニボンベを外してポーチに入れた。


「なっ……誰だお前!」


 警察が吹っ飛んだのを見て走ってきた伊月が、仁王立ちするアルタイルを見て叫ぶ。


「……」


 アルタイルは何も言わず、RとAに襲いかかった。


「くっ!」


 アルタイルの右ストレートを転がって避けたRはすぐさま起き上がってハイキックを繰り出した。


「遅い」


 アルタイルはそれを軽く避けると、重い回し蹴りを放った。


「っ!」


 Rは腕でガードしたが、アルタイルの足はガードを崩してRに直撃した。


「きゃぁっ!」


「うっ!」


 吹っ飛ばされたRがAに激突し、一緒くたに倒れる。その隙に、アルタイルは壁際にしゃがんでいるUとTに近づいた。


「まずい!」


 Aは起き上がり、催眠弾をアルタイルの顔にぶつけた。


 アルタイルの動きが一瞬止まる。


「はああっ!」


 そこに、Rと伊月の蹴りがヒットした。流石のアルタイルもよろける。


「……お前らに協力するつもりはない。ただ、アイツはやばいみたいだからな。それだけだ」


「それだけでも、ありがたいわよ!」


 Rと伊月は同時に飛び出した。


「はっ!」


 伊月のストレートをかわしたアルタイルの脇腹を、Rの蹴りが襲う。

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