第47話 罠

 民家の屋根から飛び降りた四人は博物館の裏口に来ていた。


『ハッキングできるのは五秒だけ。その間に全員入って、内側から鍵をかけて』


 怪盗Yが言う。裏口の扉の横には、キーパッドが取り付けられていた。


「OK」


 Aが静かな声で返事をする。


『行くよ。五、四、三、二、一、ゼロ!』


 Kが叫ぶと同時に、ガチャリと鍵が開く音がした。Aは勢いよく扉を開け、飛び込んだ。三人も次々と飛び込み、最後に入ったRが素早く扉を閉め、鍵をかけた。それとほぼ同時に、ピッと電子音がした。


『四秒コンマ八九。ギリギリだったね』


 Yがホッとしたような声で言った。


「練習したからね」


 Uが笑ってサングラスをかける。


「用心しろよ。何があるかわからないからな」


 Aが、打って変わって厳しい声で言う。


 表情を引き締めた四人は廊下を進んでいった。



「……」


 パイプ椅子に座っていた伊月は手に持ったスマホを横にスワイプしていたが、ふと、その手を止めた。


 そして、その唇に歪んだ笑みが浮かぶ。


 伊月はスマホを操作し、耳に当てた。


「オレだ。……ああ、やれ」


 電話を切った伊月はさらに歪な笑みを浮かべた。



 廊下を走って地下に来た四人は、ターゲットがある金庫にたどり着いた。


「ここだね」


「ああ」


 RとAが頷き合う。


『扉の横にキーパッドがある。パスワードを言うよ』


「OK」


『d25j……』


 AはKの言う通りにキーパッドにパスワードを打ち込んだ。するとピッという音がして、鍵が開くような音が聞こえた。


「開いたよ」


「行くぞ」


 Uが言うと、Aは丸い金属製の扉の取っ手に手をかけた。そして少し開き、中を覗く。


 中には作り付けの金属製の小さい金庫がズラリと並んでいて、中央にはガラスケースに入ったアレキサンドライトが鎮座していた。


「――大丈夫みたいだ。人が隠れれるところもない」


『防犯設備を切るよ。前に行った通り、一分までしか切れないから、注意して』


 Yが言った。


「OKだよ」


 Uが表情を引き締めて言った。


『行くよ。三、二、一、GO!』


 Kが叫ぶ。それと同時に見張り役のTを除いた三人は金庫に飛び込んでいた。


 先にガラスケースにたどり着いたAがガラスのカバーを持ち上げ、Rが素早くアレキサンドライトを取って布に包んだ。その間にUが、Kが用意した偽物のアレキサンドライトを元の位置に置いた。


『後十秒!』


 Yがカウントを始める。


 それと同時にAはカバーを戻した。その時、『T!』とKが叫んだ。うめき声と共にTが金庫の中に吹っ飛んでくる。


「T!? おいどうした!?」


 AとUが倒れたTに駆け寄った。


 それと同時に、ビーッ! と警告音が鳴り始めた。金庫の扉が、勢いよく閉まる。


「しまった!」


「あ……アイツらや……」


 ぐったりしていたTがかすれ声で言った。


「え?」


 Tの側にしゃがみこんでいたUが訊き返す。


「は、はよ逃げんと……」


『ダメだ! ハッキングが妨害されてる!』


 その時、金庫の四隅から白い煙が勢いよく吹き出してきた。


「な、何!?」


「これは……まずい!」


 Aが顔色を変える。


『止まらない!』


 ハッキングで煙を止めようとしているKが焦って叫んだ。


 やがて煙は金庫の中に充満し、四人の姿は見えなくなった――。

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