第29話 拒否
「……そうだね。最初に気づいたのは高山君だよ。高山君が転校してきた辺りから怪盗Xがこの町に出没し始めた。それで、怪盗達が出たとニュースになった日は、必ずと言っていいほど三人のうちの誰かが怪我をしていた」
海音は気づいていたのだ。いつも包帯や絆創膏をつけている瑠奈と相賀に。
「確信したのは前のツインタワーの一件。渡部財閥のタワーが爆破されたんだから、そりゃ見に行くよね。そしたら、相賀を見つけたんだよ。消防士に抑えられながら暴れる相賀をね。そこで疑惑は確信に変わった」
「……流石、勘が鋭いな」
「勘じゃないよ。状況証拠」
「渡部君も佐東君みたいに探偵になればいいのに」
翔太も諦めたように言った。
「海音の言う通りさ。俺と瑠奈と翔太は、この町を騒がしている怪盗だよ」
詩乃、拓真、雪美は、驚きすぎて声も出なかった。
「もちろん、それを楽しんでやってる訳じゃない。ちゃんと理由があるんだ」
微笑しながら言った相賀はふと真面目な顔になった。
「それで? わざわざ全員集めて話したってことは、何か理由があるんだろ?」
「うん。――僕も、仲間に入れてくれない?」
「え?」
瑠奈が思わず声を上げ、一同が驚く。
「何言って――」
「ずっと考えてたんだ」
海音は相賀を遮って話し始めた。
「相賀達が傷付くの嫌なんだよ。僕、これでも結構高度なプログラミングとかできるんだよ? 力になれると思って」
「……そんな覚悟じゃ、務まらないよ」
翔太が突き放すように言った。
「わかってる。危ないのは重々承知してる。でも――」
「わかってないだろ!」
突然、相賀が叫んだ。
「そういう事を言う時点でわかってない! 危ないどころじゃないんだ、死ぬかもしれないんだ! 毎回の仕事が命に関わってるんだ! そんなものに、そんな生半可な覚悟で巻き込めるか!」
「相賀……」
瑠奈が呟き、相賀はハッとした。そして決まりが悪そうに黙り込む。
「……うん、木戸君の言う通りだよ」
やがて翔太が口を開いた。
「僕達の敵は警察や実鈴だけじゃない。僕達はある組織に狙われてるんだ。極悪非道な、ね。だから……。その頼みは引き受けられない」
「……」
海音は何も言えなかった。
「そういうことなの。ごめんね」
瑠奈が謝ると、相賀と翔太は席を立った。
「ごめん、俺達帰るな」
「この話はなかったことにしてくれ」
三人が応接間を出ていき、残された四人は沈黙に包まれた。
その夜。Rはある小さなビルに忍び込んでいた。
『今回のターゲットはルビー。このビルを持っている会社の社長は、社員にろくに給料を払ってないし退職もさせない。ブラック企業なんだ 』
廊下を走るRの通信機からAの声が聞こえる。
「わかってるって。また連絡するから」
苦笑いしたRはさらに廊下を走っていった。
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