第28話 正体

 玄関ホールは吹き抜けになっていて、学校の教室がまるまる入りそうな広さだった。天井からはクリスタルのシャンデリアが下がっている。


「お帰りなさいませ、海音様」


 門の側に立っていたメイドが深々とお辞儀をする。


「皆様、いらっしゃいませ。宇野が応接間に案内致します」


 顔をあげたメイドはそう言って再びお辞儀をした。


 頷いた宇野が「こちらへどうぞ」とワインレッドのカーペットが敷かれた廊下を歩き出す。


「確か今日は兄さんも妹も出かけてるから気兼ねなくくつろいで」


 海音がそう言った時、宇野があるドアの前で立ち止まった。金色のノブがついた豪華な扉だ。


 宇野は二回ノックした。


「どうぞ」


 中から男性の声が聞こえ、海音は「あれ?」と声を上げた。


「兄さん帰ってたんだ」


 宇野が扉を開けると、中には大理石の大きなテーブルが置かれ、肘掛け椅子が テーブルを囲むように並んでいた。壁には作り付けの棚が置かれ、トロフィーや盾が並んでいる。


 隅の椅子には大学生くらいの男性が座っていて、向かいの椅子には小学生くらいの女子が二人座り、楽しそうに喋っていた。


 ふと、一人の女子が入口にいる瑠奈達を視界に捉えた。キャッと小さな悲鳴をあげ、もう一人のお下げの女子に隠れてしまう。


「ごめん、帰ってるの知らなくて……。大丈夫だよ桜音。僕の友達だから……」


 海音がすっと部屋に入り、隠れた女子を宥める。


 すると、男性が立ち上がった。


「海音、この部屋使うのか?」


「ああ……。勉強会するつもりだったから」


桜音おと雨月うつきちゃんと部屋に行ってな」


 男性が優しく言うと、女子――桜音は震えながら頷き、もう一人の女子――雨月に支えられながら部屋を出ていった。


「ごめんねみんな。桜音は人嫌いが激しくて……」


 男性はそう謝ると「そうだ」と顔を上げた。


「知らない子達もいるし、自己紹介しなきゃね。俺は唯音。海音の兄だよ。よろしくね」


 爽やかな笑みを浮かべた唯音は軽く会釈した。


「海音、俺父さんの代わりに会議に出なきゃいけないからもう行くな。後はよろしく」


「うん。気をつけてね」


 唯音は軽く手を振りながら応接間を出ていった。



「でね」


 しばらく勉強した後、海音が不意に口を開いた。


「今日皆を呼んだのは、話したいことがあるからなんだ」


「話したいこと?」


 雪美が聞き返す。


「単刀直入に言うね。――相賀と瑠奈さん、二人は怪盗なんでしょ?」


「!?」


 瑠奈がハッと目を見開き、相賀は飲んでいた紅茶にむせた。


「え!?」


「どういうことや!?」


「え……」


 詩乃、拓真、雪美も驚く。


 単語帳を見ていた翔太も目を見開いたが、持ち前のポーカーフェイスでギリギリ顔に出さなかった。しかし、海音が次に発した言葉に表情を崩すことになる。


「それで、高山君も怪盗でしょ?」


「っ!」


 翔太は目を再び見開いた。しかし、フッと目を伏せ、単語帳をテーブルに置いた。


「なあ! 一体どういうことなんや!」


 拓真が叫ぶと、目を閉じていた相賀はゆっくりと目を開けた。


「……何で気づいた?」


 相賀の発言に、海音は面食らった表情をした。


「……否定しないんだ」


「今更じたばたしたってしょうがない」


 翔太は相賀の言葉に頷き、右目にかかった前髪をかきあげた。瑠奈も諦めた表情をしている。


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