第27話 海音の提案

「今日、家で勉強しない?」


 海音がそう言ったのは、二月の期末テストが二週間後に迫った日だった。今日は職員会議があり、部活は休みだ。


「オレは構へんけど……。相賀はどうや?」


 林拓真が相賀を見ると、相賀は頷いた。


「俺も大丈夫だよ」


「じゃあ決まり。……雪美さん達も誘う?」


 嬉しそうに言った海音はふと思いついたように訊いた。


「まあ大人数の方が楽しいしなァ」


「じゃあ誘ってくるね」


 海音はウキウキと朝井雪美の元へ向かった。


「海音君の家で? いいよー。今日は勉強の予定だったし」


「良かった。ところで、石橋さん達も誘いたいんだけど……」


「瑠奈達も? 二人今お手洗いに……、あ、戻ってきた」


 海音は教室に入ってきた瑠奈と中江詩乃に同じことを訊いた。


「全然大丈夫!」


「空いてるよ」


 全員から了承をもらった海音は「あのさ……」と遠慮がちに切り出した。


「高山君も誘いたいって思ってるんだけど……いいかな?」


「高山君? 良いけれど……」


 雪美が言うと、瑠奈と相賀は顔を見合わせた。


「高山君!」


 海音は教室を出ようとしていた翔太を呼び止めた。


「渡部君の家で勉強? ……まあ、良いけど……」


「じゃあ決まり! 迎え呼ぶからちょっとまってて」


 海音はスマホを手に取ると電話をかけた。


「そう言えば渡部君、渡部財閥の御曹司だったね」


 翔太がボソッと呟くと、電話を切った海音が振り返った。


「五分後にじいやが来るって。外で待ってよう」


 スマホをズボンのポケットに入れた海音は机に乗せていたリュックを持ち、歩き出した。


「……どうしたの? 行こうよ」


「お、おう」


 ポカーンとしている相賀達に海音が声をかけると、慌てて支度を始めた。


「……海音、どうしたんやろか」


「ああ。いつもあんなに積極的じゃないんだけどな……」


 拓真と相賀は海音を訝しげに見ながら後を追った。


「じいや! リムジンで来ないでって言ったのに……」


「申し訳ございません、海音様。何分、ワゴンの方が故障中だったもので……」


「あー……。そう言えばそうだったね……」


 車から降りた宇野うの晴彦はるひこは頭を下げ、スライドドアを開けた。


「どうぞ、皆様」


 一同は顔を見合わせると、次々に乗り込んだ。


 リムジンは静かに出発し、町外れの高級住宅街へ向かった。


「海音」


 拓真がふと、海音を呼んだ。


「急にどうしたんや?」


「……ちょっとみんなに話したいことがあってね。まあ、着いてから話すよ」


「……そか」


 拓真が頷くと、リムジンは高級住宅街の中でも一際大きな屋敷の前に止まった。


「どうぞ」


 宇野が運転席から降り、スライドドアを開ける。


「うわあ……」


 海音の屋敷を見た翔太は思わず声を漏らした。


 テレビに出てくるような大きな門に、真っ白な壁の屋敷。庭も広く、花壇はもちろん、噴水まである。


「奥様はガーデニングが趣味でございまして、屋敷の裏にはさらに大きな花壇がございます」


 門を通り抜けながら宇野が説明した。


 玄関も大きな門で、ノッカーも着いていた。


 宇野がノッカーで二回叩くと、門が大きく開いた。

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