第26話 それぞれの想い
「……嫌だよ……」
瑠奈は涙声になりながら相賀のジャケットをつかんだ。
「相賀がいなくなるなんて……私嫌だよ……!」
「……」
相賀は自分のジャケットをつかみながら泣き出す瑠奈に何も出来ないでいた。
「石橋君、木戸君のことすごく心配してたんだよ」
翔太が独り言のように言い添える。
「……あれで納得してくれるとは思ってない。追いかけてくるとも思ってた。……ハッ。こんなことなら、さっさと町を出ればよかったな……」
相賀は自虐的に笑った。
「……お前頑固なとこあるからな。怪盗やめろって言っても、拒否するだろ。だから何も言わずに消えるのがいいと思ったんだ。迷惑はかけるけど、瑠奈がこれ以上危険な目に遭うなら……」
「危険なことくらい最初からわかってた!」
瑠奈は泣きながら叫んだ。
「怪盗になった最初の日に相賀が危ない目に遭って……それでわかったの。警察に捕まらなければいいんじゃない。もっと危ない奴らもいるんだって……」
相賀は黙って瑠奈の話を聞いていた。
「だから腹をくくったの。何かあっても私が相賀を守る。いくら危険でも相賀について行く。そう決めたのに……」
再び泣き出す瑠奈に、相賀は何も言えなかった。
ずっと黙っていた翔太がハァ……と息をついた。
「二人揃って頑固だなぁ……。それぞれお互いを守りたいなら守ればいいじゃないか。それなら文句ないだろ?」
「でも! また瑠奈が前みたいなことに巻き込まれたら……」
「それは心配ないだろ?」
翔太は相賀を見てニヤリと笑った。
「君が石橋君を守るんだろ? 木戸君」
「……」
「ま、無理な時は僕を呼んでよ。少しは力になれると思うからさ」
翔太はそう言って踵を返して歩き出した。
「……それが僕を誘き寄せるための罠だった……としてもね」
翔太の呟きは、相賀に聞こえていなかった。
アジトに戻った相賀は瑠奈にこっぴどく叱られていた。
「わかった!? これからはこういうの無しだからね!!」
「はい……」
すっかり落ち込んだ相賀に、瑠奈はフッと微笑んだ。
「……どこかに行ってなくて良かった」
その言葉に驚いて顔を上げた相賀も微笑を浮かべた。
「……ああ。ごめんな」
「もういいよ。――それで、次のターゲットは?」
瑠奈が訊くと、相賀はニヤリと笑った。
「隣町にあるビルのルビーだ」
答えた相賀は座っていたソファから立ち上がり、パソコンを開いた。
家に帰った翔太は、窓枠に腰掛けて空を眺めていた。オリオン座が空高くに輝き、冬の大三角もよく見える。翔太のオッドアイに星が映り込み、ゆらゆらと光った。
翔太の右手には銀色のロケットが載せられていて、蓋が開いていた。オルゴールの『 アンタレス』が流れている。
(僕はいつまで……この空を見られるのかな……)
どうせ、自分は狙われている身だ。だったら、誰かに守られるのではなく、守りたい。たとえそれで将来を失うことになっても――。
(――僕にはどうせ、未来なんてないんだから)
ロケットの蓋をパチンと閉めた翔太は窓枠から降りた。
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