第30話 暗殺者

 十分後。


 Rから連絡を貰ったAはルビーがある部屋に入っていた。ルビーが入っているガラスケースには鍵がかかっていたが、鍵開けツールでサッと開ける。


「R、盗んだぞ」


『 OK!』


 通信機を切ったAが部屋を出ようとした時――。


「ハァ……。今日は越されたか」


 突然声がした。驚いて振り返ると、仮面をつけた怪盗Xがドア枠にもたれていた。


「X」


「ま、しょうがないか。今日は僕が用意に手間取っちゃったからね」


 Xは両手を上げ、やれやれと息をついた。


「ほら、脱出するぞ」


「ああ」


 XはAに続いて部屋を出た。


「このビル、テレビ局みたいになってるよね」


 廊下を走っていると、Xが不意に言った。


「ああ。……防犯対策してるってことだろ」


 その時、前を走るRの後ろ姿が見えた。


「R」


 Aが呼ぶと、Rは驚いたように振り返った。


「あ、Xもいたんだね」


「ああ」


 Xが頷いた時――Aはある気配を感じた。ばっと振り返ると、月光が差し込む窓を背にして誰かが立っていた。長い銀髪の女、ということはわかったが、顔は逆光でよく見えない。


「え!? さっきまで誰も……」


 Rが驚いて叫ぶ。


「――気をつけろ。あいつは多分……組織の奴だ」


 顔が強ばったXが言う。


「ああ。この威圧感……一等星だな」


「あら。よくわかったわね」


 女が口を開いた。高い声で、どこか偉そうな雰囲気がある。


「遠慮なく行かせてもらうわよ」


 女は言い終わるや否や動いていた。


(早っ……!)


 Rはなんとか左にズレて突進してくる女を避けると、振り返りざまに蹴りを繰り出した。女はそれを軽く避け、タンッとジャンプした。そしてRの頭上を超えて着地する。


(なんだよ……こいつ……)


 Xは技を繰り出しながら内心首を傾げた。


 女は全く反撃してこないのだ。自分たちの攻撃を避けながら走り回るだけで何もしてこない。


(こいつは何がしたいんだ……?)


 バク宙で女を避けたXの右上腕部に痛みが走った。


「え?」


 見ると、壁に金属のフックのようなものが付いている。


(なんでこんなものが……? それに……なんか動きにくい……)


 バク宙がいつもより低いのだ。


「……そろそろ、いいかしらね」


 三人から少し離れた所で止まった女は、右手で何かを握ってギュッと引っ張った。


 その途端、三人が動きを止める。


「なっ……!?」


「何よ、これ……!」


「ワイヤー……!? 僕達の攻撃を避けながら絡めていたのか……!」


「ご名答」


 女が笑う。壁に複数つけられたフックに引っ掛けたワイヤーに絡め取られた三人は動けなかった。


「蜘蛛の巣かよ……!」


 Aがもがきながら呟く。


(しかも……。あれを片手だけで……。力が只者じゃねぇ……!)


「それだけじゃないわよ」


 女が楽しそうに言った。そして左手でワイヤーを持って引っ張った。


「ガハッ……!」


 突然、Xのうめき声が聞こえる。


「まさか!」


 Aはなんとか首を捻ってXを振り返った。


 月光が窓から差し込み、Xの首に絡まったワイヤーが光る。


「テメェ……!!」


「アタシはAとRの捕獲、Xの抹消に来たのよ。悪く思わないでね」


「ガッ……うっ……」


 Xの顔色が、どんどん悪くなっていく。


(クソッ! 助けたいのに……。これじゃあ動けねぇ……!)


「X!!」


 Rの悲痛な声が響く。

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