第31話 助け
その時、女が突然体制を崩した。ワイヤーが緩み、三人が床に落ちる。
「ガハッ!! ゲホッ……」
首のワイヤーが緩んだXが、それを掴みながら激しく咳き込む。
「大丈夫かX!?」
Aはウエストポーチからナイフを取りだし、ワイヤーを切りながらXに近づいた。
「誰よ!?」
倒れた女がキレながら起き上がって叫ぶ。
「誰って聞いた?」
「答えられんなぁ。その質問は」
逆光でシルエットしか見えないが、長いツインテールとガタイのいい――。
「まさか!」
マスクで顔を隠してはいるが、間違いない。詩乃と拓真だった。
「何でここに!?」
Rが叫ぶ。その時、通信機にノイズが走った。
「え!?」
この場に三人が集合しているのだから、通信機は使っている人はいないはずだ。
『僕が教えたんだよ』
「……!」
(海音……!)
「何でって? 助けるために決まってるじゃん!」
「来るなって……言った……のに」
まだ肩で息をしていた翔太がなんとか声を絞り出す。
「はいそうですかって引き下がれるわけないやろ。聞いたならほっとけないやろ」
「行くよ!」
詩乃が言い、拓真も構える。
「鬱陶しい!」
女が叫び、飛び出した。
詩乃は女の蹴りをしっかり見極めて避けた。そこに拓真のパンチが飛んでくる。
「っ!」
女は慌てて体を引いて避けた。しかし、背後にRが迫っていた。
『瑠奈! そこ!』
雪美の声も通信機から聞こえる。
「はあっ!」
Rの怒りがこもった蹴りをもろに食らった女は吹っ飛んだ。
「すごい……」
Xの側にいたAは思わず呟いた。
「なんであんなに……連携が取れるんだ……」
ようやく落ち着いてきたXも呆然とする。
「やっぱり……長くいるから、その分相手が考えてることがわかるんじゃないか? 拓真は助っ人で色んな部活行ってて体力あるし……中江さんは確か動体視力が良かったから……」
「そういう事か……」
「ちくしょう!」
吹っ飛んで壁に叩きつけられた女は叫びながら立ち上がった。と、
『そのあたりでやめておけ』
突然どこからか声が聞こえた。男の声だ。
「スピーカー?」
Aが辺りを見回す。天井にスピーカーが付いていた。声はそこから聞こえる。
『もう引け。――今回は見逃してやる、怪盗共』
そこでぷつんと放送が途切れた。
「しょうがないわね」
イライラした声で言った女は銀髪をかきあげた。
「教えてあげるわ。アタシはベガ。そして今の放送の奴はデネブ。今まであんた達を襲ってた男――アルタイルの仲間よ」
「え……?」
Rが目を見開く。
「まさか仲間が増えてるとは思わなかったわ。次は覚悟してなさい」
言い放った女――ベガは煙幕を張った。
「待てっ! クソッ!」
Aが駆け寄ったが、ベガはもう既に消えていた。
「相賀……。相賀達を狙ってる奴って、今のか?」
拓真が訊く。Aはそれには答えず、Xを振り返った。
Xはもう回復して普通に立っていた。まだ首には、ワイヤーの痕が残っていたが。
「……とりあえず、帰るぞ。海音、今どこにいる?」
『境目の公園だよ』
「俺の家に来てくれ」
通信を切ったAはさっさと歩き出した。
「あっ、待ってよ!」
Rが慌ててAを追いかけ、三人も後に続いた。
公園の東屋の中にいた海音は、つけていたヘッドホンを取って立ち上がった。眼鏡は外している。
「……行こうか、雪美さん」
「うん」
海音の隣に座っていた雪美もヘッドホンを外し、パソコン等を片付け始めた。一本の三つ編みにしたロングヘアが、夜風になびいた。
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