第181話 進む計画
『これは……まずい……』
ベッドに乗せられた翔太の怪我を診た医師の一言が、重くのしかかる。
一緒に救急車に乗ってきた相賀、宇野に送ってもらった瑠奈達、地下室から駆けつけた海音、雪美は救急処置室の前で翔太の処置が終わるのを待っていた。全員が悲痛な面持ちで部屋の扉を見つめている。
翔太が運び込まれて五分ほど経ったとき。一人の看護師が慌てた様子で廊下に飛び出してきた。その看護師の言葉を聞いた一同が顔色を失った――
「……なぜ、殺さなかった?」
氷刃のような声が、ベクルックスに鋭く突き刺さる。
目の前の豪華なデスクに座るのは、ボスであり、自分の父親である大沢佳月。背後のガラス張りの壁から射し込んでくる朝日で表情は見えない。だが、その声は絶対零度ほどの冷たさを含んでいた。
「申し訳ありません。まさか、警察が突入してくるとは……」
「言い訳はいい」
佳月はぴしゃりと言った。
「警察共が突入してくる前でも、十分過ぎるほどチャンスはあったはずだ。なぜ、引き金を引かなかった? 私は、そんなふうにお前を教育した覚えはないぞ」
――相手の隙をつき、躊躇わず撃て。
そう、教えられてきた。けれど。
引かなかったのではない。引けなかったのだ。あれだけの憎悪を覚えながらも、トドメはさせなかった。
うつむくベクルックスに、朝日が当たる。
確かに、警察が介入してくるのは想定外だった。あいつらなら――怪盗達なら、そんな事をするわけがないと高を括っていたのだ。Aの焦りようには内心首を傾げたが、まさかそんなことはないと、思い込んでいた。
「……申し訳、ございません」
ベクルックスは頭を下げた。フッと息を吐いた佳月は立派な革張りの椅子に体を預けた。
「……一度、高山翔太の抹殺は諦めろ」
「な……っ!?」
佳月が発した衝撃的な言葉に、ベクルックスは思わず声を上げた。
「どうしてですか……? まさか、オレが……」
自分がいつまでも翔太を消せないから、任務から降ろされるのか――
だが、佳月は即座に「違う」と否定した。
「それよりも優先することができたからだ。――アクルックスを組織に引き入れろ」
「…………」
アクルックスを、組織に引き入れる。それは、ベクルックスにとって翔太を抹殺することと同じくらい、いや、それ以上に難しいことだった。
「……ですが、それもどうすればいいか……」
「そんなことは決まっているだろう」
佳月が笑みを浮かべる気配がした。それだけでベクルックスの全身に鳥肌が立ち、冷水を掛けられたかのように背筋が冷たくなる。逆光で見えなくてもわかる。佳月は今、勝利を確信したときの、残忍な笑みを浮かべている。
「奴の正体を、仲間の前でバラしてやればいい。流石の奴も、ただでは済まないだろう」
「…………」
以前のベクルックスなら、容易に考えついたのかもしれない。だが、今のベクルックスには考えられなかった。そして、続く佳月の言葉に驚愕の表情を浮かべる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます