第182話 再会
翔太はまた、あの雪の降る空間にいた。ずっと感じていた鈍い痛みはないが、さっきより体がふわふわしている気がする。
「……今度こそ、終わりだろうな」
翔太には、人がどのくらい失血すれば命に関わるのかわからない。だが、自分で感じていた。これは助からないんじゃないか――と。
(……それでもいい、はずだったのに)
心のどこかに違和感がある。なぜか、後悔しかない。相賀達仲間やクラスメートの笑顔が次々と脳裏をよぎる。
横たわっていた翔太はゆっくり起き上がった。そして、目にかかってきた前髪をかきあげる。その奥のオッドアイが、哀しげに光った。フッと、自虐的な笑みを浮かべる。
「何か言えば、良かったのかな……」
思わずそんな事を呟いたとき。
「――翔太」
翔太以外誰もいなかったはずの空間に、女性の柔らかい声が響いた。
「――っ!?」
思わず弾かれたように顔を上げる。ずっと聞きたかったのに、もう聞くことができない声。この世には存在していない声。
あたりを見回すと――三人の人影があった。
「え……」
思わず声が漏れる。
そこにいたのは、もうこの世にはいないはずの、レオン、とあ、風斗だった。
「にーに!」
風斗が、とあと繋いでいた手を離し、翔太に駆け寄ってきた。そして足に抱きつく。
「風斗……」
翔太がしゃがみ込み、風斗の頭を撫でると、風斗は笑い声を上げた。
「翔太」
今度は、優しいテノールの声がした。いつの間にか、レオンととあが近寄ってきていた。そしてとあが翔太を、強く、優しく抱きしめる。
「ごめんね翔太。一人にして、本当に、ごめんなさい……!」
とあの声が、震える。
「……母さん」
久しぶりに感じる温もりに、翔太のオッドアイが潤んだ。すると、レオンが翔太の頭に手を置いた。
「父さん」
「……謝っても、もうどうしようもないことはわかってる。どうしたって謝りきれない。でも……本当にごめんな、翔太」
翔太は顔を上げ、澄んだブルーの瞳を見つめた。
「……一人じゃ、なかったよ」
泣いていたとあが、顔を上げる。
「最初は、もう一人だと思った。けど、一人じゃなかった。仲間が……いてくれたから」
自分を受け止めてくれたクラスメートがいた。自分のことを、命を賭けてまで助けようとしてくれた仲間がいた。
「……そうか」
レオンが優しく微笑む。
「うん」
頷いた翔太の頬が――不意に濡れた。
「あ、あれ……?」
それが涙だと気づいたときには遅かった。家族の姿が、滲んで歪む。
「なんでだろ、僕……っ」
「翔太……」
とあが再び翔太を抱きしめた。レオンも、とあごと翔太に手を回す。風斗がまた翔太の足にくっつく。
「……っ、うっ……」
ダムが崩壊したかのように、翔太の目からとめどなく涙がこぼれる。いくら拭っても、止まってくれない。今まで我慢していたものをすべて吐き出すかのように、翔太は泣き続けた。
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