第183話 また会える

「……ずっと、会いたかった」


 しばらくして、翔太はようやく口を開いた。


「ずっと訊きたかった。僕が……僕なんかが、生きてていいのかって」


 レオン達に訊くことではない。それは痛いほどわかっていた。今翔太を抱きしめている家族は、きっと、翔太が見ている幻だ。死んだ人が生き返ることはないのだから。だが、それでも縋りたかった。答えが欲しかった。


「……いいに、決まってるじゃないか」


 答えたレオンの声が、震えていた。


「生きてくれ、翔太」


「でも……僕のせいで、周りの皆が……!」


「違う。それは絶対に違うんだ、翔太。それは絶対、お前のせいじゃない」


 レオンの腕に力がこもった。


「翔太、聞かせてくれ。周りの皆とか関係なく、お前が本当はどうしたいのか、何がしたいのかを」


 ――前にそれを考えたとき、思い浮かんだ答えは「消えたい」だった。でも、今は。自分がここまでしても助けに来てくれる仲間がいるとわかったから。


「――死にたくない。皆と一緒にいたい……!」


 そんな事を思ったのは初めてだった。


 罪悪感が消えたわけではない。それでも、生きたいと思えた。仲間達のおかげで、前向きに考えることができるようになっていた。


 それを聞いたレオンがフッと微笑む。


「……なら、お前はまだ、こっちに来るべきじゃない」


 とあと翔太を優しく離し、トンっと翔太の肩を押す。


「っ……」


「そっちに行けば戻れる」


 数歩ふらついた翔太はまだ濡れている目をこすり、立っている家族を見据えた。


「……ありがとう」


 とあが止まらない涙を拭いながら微笑んだ。


「元気でね、翔太」


「うん」


 翔太が頷いたとき。


「いっちゃやだ!」


 訳がわからないという顔をしていた風斗が翔太の足にしがみついた。


「やだやだ! にーにいっちゃだめ!」


「風斗……」


 翔太はしゃがみ込み、大泣きする風斗の頭を優しく撫でた。


「会えなくなるわけじゃないよ。絶対に、また会えるから」


「……ほんと?」


「本当だよ」


 それがいつになるかは、誰にもわからない。明日かもしれないし、はたまた何十年後かもしれない。それでも、いつかはまた会える。


「ぜったいだよ」


「うん」


 ギュッと風斗を抱きしめた翔太は立ち上がった。


「またね」


 手を振り、家族に背を向ける。


 いつの間にか降っていた雪はやみ、銀白の世界は美しい星空が広がる草原に変わっていた。



「…………」


 ベッドで眠っていた翔太は目を覚ました。その途端、頭と肩に鈍い痛みが走る。


「いっ……て」


 頭に触れると、布のような感触がある。


 ハッとして起き上がると、そこは病室だった。夜のようで、電気は消えている。


「――起きたか」


 突然声が聞こえ、驚いて窓を振り返る。開け放たれた窓枠に腰掛けているのは――相賀だ。


「……何日寝てた?」


 尋ねた声は、少しかすれていた。


「三日だ。今日は二十四日。……と言っても、もう日付が変わるから二十五日だな」


「…………」


 十二月二十五日。家族の命日だ。

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