第184話 病室で
「お前なあ」
片足を外に投げ出した相賀が、景色を見ながらぶっきらぼうに言った。
「血液型、RH−なら早く言えよ。看護師慌ててたぞ。在庫があったから良かったけどよ」
「…………」
軽く目眩を覚えた翔太は何も言わずに壁に体を預けた。
「……どうして、助けに来たの」
「は?」
相賀が呆れたように振り返る。その顔にはひどいクマがあった。
「……仲間だからに決まってんだろ。演技下手なんだよ。それにこれも落としてったしな」
窓枠から降りた相賀は着ていたブルゾンのポケットから何かを取り出し、翔太のベッドの上に置いた。月光に当たって銀色に輝くそれは、形見のペンダントだった。
「それ落としておいて、どうしてはないだろ。通信機まで弾いておいてよ。……これ、遺していくつもりだったんだろ」
どうやら、全部見抜かれていたらしい。
「……何があった? 伊月に何か言われたのか?」
翔太はフッとオッドアイを伏せた。
「……夢を見たんだよ。僕以外の君達が、伊月に銃殺される夢をね。あんな夢見たら、誰だって……」
布団の上に置いた手に力がこもる。
相賀は「ああ……」と納得したようだった。
「教室飛び出してったあれか。でも、そこまでする必要あったのか? 俺達が本当にやられると思ったのか?」
相賀の声が少し大きくなる。
「君達にはわかんないよっ」
翔太はギュッと目をつぶった。
「俺がどんな思いをしてきたかなんて、誰にも……!」
――信頼はしている。だが、知ったような口は利いてほしくなかった。
「……わかるんだよな、これが」
「え……?」
「忘れたのかよ」
相賀は開けっ放しにしていた窓を閉め、再び翔太を振り返った。
「……母さんが死んで、一人ぼっちになったから」
窓から射し込む月光で、相賀の表情は見えない。だが、その声はどこか締め付けられるような気がした。
「前にも言ったろ。俺は――」
「だけどな、翔太」
相賀は翔太の言葉を遮って口を開いた。
「……これは瑠奈達も知らないことだ。お前にしか言わない。誰にも言わないでくれ。――……」
「……えっ」
相賀の話を聞いた翔太の口から、声にならない声が零れた。オッドアイが大きく見開かれる。
「……それって……」
――嘘だろ。その言葉だけが頭の中をぐるぐる回っていた。まさか相賀が? そんなの信じられるわけ……
「前に組織のボスに会わされたときに聞いた。だから……お前の気持ち、痛いくらいわかるんだよ」
辛そうな声で言った相賀はギュッと拳を握りしめた。
「……ごめんな。気づいてやれなくて」
それだけ言って、病室を出て行く。
「あっ、ちょっと……!」
翔太は思わず手を伸ばしたが、相賀には届くはずもなかった。
「……なんだよ。自分だって、一人で背負ってるんじゃないか」
一人になった病室で、翔太は独りごちた。
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