第185話 石橋家と木戸家
夜が明けると、相賀から連絡をもらったのか、瑠奈達が病室にやってきた。
「ほんとに良かった……」
海音が病室内にあるソファセットに崩れるように腰掛け、雪美が慌てて駆け寄る。瑠奈達もホッとしたような顔をしている。
「……皆、迷惑かけて、本当にごめん」
ベッドに腰掛けた翔太は静かな声で謝った。
「皆はずっと僕に、生きてていいって言ってくれてたけど……それでも、どうしても自信が持てなかった。僕は、狙われている身だからね。……でも、ようやく踏ん切りがついたよ」
顔を上げた翔太は優しく微笑んだ。
「ありがとう、助けに来てくれて」
「……当たり前だよ、仲間だもん」
瑠奈がそう言うと、一同も笑顔で頷いた。
瑠奈達が帰った後。一人になった翔太は病室の窓を開けた。その途端に冷たい風が吹き付けてくる。
「冷たっ」
思わずそう呟く。だが、窓は閉めなかった。握っていたロケットを開くと、オルゴールのアンタレスが流れ出す。
(……父さん、母さん、風斗。迷惑かけてごめん。僕、もう大丈夫だよ)
澄んだ青空を見つめながら、翔太は家族に想いを馳せた。
病院から帰った相賀と瑠奈は、石橋家のリビングにいた。並んでダイニングテーブルにつく二人の正面には、瑠奈の両親、悠里と望が座っている。
「――それで、話ってなんなの?」
病院から帰ったら話がある――そう言われたから来たのに、二人はなかなか話し出さない。しびれを切らした瑠奈が急かすと、二人はゆっくりと顔を上げた。
「相賀も呼ぶ必要あるの?」
「……大アリだよ」
静かに頷いた悠里が、瑠奈と相賀を真っ直ぐに見据えた。
「単刀直入に言うよ。瑠奈と相賀君。君達は、怪盗なんだろ?」
「――!?」
二人はハッと息を呑んだ。
「……それと、相賀君のお母さんも怪盗よね?」
「なっ……!?」
望の言葉に、相賀が言葉を失った。
「……私は、わかるけど、なんでそこまで」
同じく言葉を失っていた瑠奈が言葉を絞り出した。
自分はわかる。きっと、翔太を助けに行こうとして玄関で見つかったときに気づいたのだろう。そのまま相賀の正体にも感づいたのかもしれない。だが、それだけでは相賀の母親――怪盗Mにたどり着くことはできないはずだ。
「……昔の話なんだけどね。私と相賀君のお母さん――
望は話しながらその当時のことを思い出した。
『望、話があるんだけど』
そう言われたのは、真優がまだ一歳の相賀を連れて自宅に遊びに来ていたときだった。
『話?』
瑠奈と相賀が積み木で遊んでいるのを眺めていた望は正面に座る真優に目を向けた。
『実はね――私、怪盗Mなの』
『……へ?』
真優が発した言葉を理解できず、思わず間抜けな声を出してしまう。持っていたティーカップを落としそうになり、慌てて持ち直した。
高く積まれた積み木を崩して遊んでいる子ども達の笑い声がやけに遠く聞こえる。
怪盗Mと言えば、近頃この辺を騒がせている女怪盗だ。義賊らしく、盗むのは盗品の宝石ばかり。
あまりニュースを見ない望も存在を知ってはいたが……その正体が、目の前にいる親友? 冗談としか思えない。
『……冗談やめてよ〜真優らしくないよ?』
なんとか笑い飛ばすも、真優は首を振った。
『ううん、冗談じゃないよ』
『…………』
真優の真剣な表情を見た望はゆっくりとティーカップを置いた。
『……もう少し、詳しく説明してくれる?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます