第186話 怪盗Mの相棒
「……それでわかったのは、真優はある人を止めるために怪盗をやってるってことだった」
相賀と瑠奈は、ただただ呆然として望の話を聞いていた。
「結局それが誰なのかは教えてくれなかったけど、一人でずっと抱えていたらしいの。旦那さんはいないしね。それを聞いて私は――協力することにしたの」
「えっ」
瑠奈が声を漏らす。
「それって……」
「ええ、そうよ。私はかつて、怪盗Mの相棒、怪盗Nだったの」
二人はもう、言葉も出なかった。
「と言っても、実際に盗むのは真優で、私は機材の手配とかぐらいしかやってなかったからね。警察でも、私の存在を知っていた人は少なかった」
「……その存在に気づいたのは、俺なんだけどね」
望の意味ありげな視線を受けた悠里がやっと口を開いた。
「え!?」
驚いた瑠奈が思わずテーブルに手をついて立ち上がる。
「じゃあ、お父さんってもしかして……!」
「ああ。昔、警察官だったんだよ。けれど、望が怪盗をやってるって気づいたんだ」
「結構すぐに気づかれちゃったのよね。悠里って勘が鋭いから」
望が軽く惚気ると、悠里は少し微笑んだ。
「俺には二つの選択肢があった。警部達に知らせて望を逮捕するか、黙っているか。逮捕する選択肢は当然なかった。けど、警察官としてのプライドもあったから黙っているのもキツくてね。警察を辞めて、今のIT企業に転職したんだ」
相賀と瑠奈は理解が追いついていなかった。思いもしなかった真実の連続で、開いた口が塞がらない。
「……瑠奈達が怪盗なんじゃないかって、薄々は気づいてた。けれど言えなかった。そもそも、私がやめなさいって言える立場じゃないからね。でもこの間玄関で会って、改めて思ったの。話す時が来たんだって」
そう言う望の表情は凛としていた。
「――ねえ、相賀くん」
瑠奈がトイレに行っているとき。望が相賀に声をかけた。
「はい」
「……あのことって、瑠奈達に話してる?」
その瞬間、相賀の表情が凍りついた。
「どうしてそれを……!」
「そりゃあわかるわよ。真優が全部教えてくれていたから。でも、その感じだとまだ話してないみたいね」
相賀はそっとうつむいた。
「……翔太には話したんですけど、まだ、瑠奈達には……全部終わってから、話そうと思ってます」
「……そう」
(隠し通せるといいわね……最後まで)
心の中でそっと呟いた望はフッと目を伏せた。
翔太はベッドに腰掛け、澄んだ夜空に浮かぶ三日月を窓越しに見つめていた。
『あの日、貴様の家族を殺ったのは、このオレだ』
ベクルックスの言葉が脳裏に蘇る。あの時は意識が朦朧としていてそれどころではなかったが、今は冷静に考えられる。
だが、なぜか、怒りの感情は湧いてこなかった。仇がずっと近くにいたのに気付けなかった自分に腹が立つわけでもない。なんとも言えない、名前もつけられないような感情が渦巻いている。
(何か事情がありそうなんだよな)
自分を蹴り飛ばしてきたときのベクルックスの顔。本来ならば、ベクルックスが翔太に憎悪を覚えることはない。それなのに、あんな表情をしたということは――
(一度、話を聞いてみる必要がありそうだな)
三日月から目を逸らした翔太はベッドに横になった。
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