第188話 始業式

「……どういうことだよ、これ」


 冬休み明け、始業式。ガラガラの教室を見て、三浦永祐はため息をついた。


「学級閉鎖レベルだろ。まあ、佐東は遅刻って連絡はいってたけど……」


 相賀達7人と、伊月、実鈴がいない教室は、とてもすいて見えた。


「何やってんだろうなああいつら」


 ホームルームが終わり、頭の後ろで両手を組んだ慧悟は呆れた声で言った。


「実鈴さんと伊月はいいとしても、他の7人が一気に休むって相当だよね」


 本を読んでいた翼が顔を上げる。


「あいつら仲いいし、揃って風邪引いたんじゃね?」


「んなわけねーだろ」


 竜一の言葉に、光弥が冷ややかにツッコむ。


「でも、ちょっと心配だよね……」


 明歩が言うと、愛と柚葉が頷いた。


「何かあったのかな……」


 香澄は振り返り、空っぽの瑠奈の席を見つめた。



 実鈴は警視庁の廊下で電話をかけていた。3コール程で、相手が電話に出る。


「もしもし?」


『もしもし、どうした?』


 電話の相手は相賀だった。


「あなた達、今日学校に行ってないの?」


『え、ああ……』


「三浦先生から連絡が来たのよ。木戸達が学校に来ていない、何か知らないかって」


『連絡したんだけどなあ……』


 電話の向こうで、相賀がため息をつく。


『元々翔太はまだ入院中で学校行けないし、俺達もまだ傷が治ってないんだ。こんなんじゃ学校なんか行けねえって』


 相賀の声は飄々としているが……実鈴はわかっていた。それはただの言い訳だと。


「嘘言わないでいいわよ。相手は私なんだし」


『…………』


 実鈴がそう言うと、相賀はしばらく黙り込んだ。


『……今回の件でわかった。もうあいつら組織は容赦はしてこない、誰を巻き込むか分からないってな。そんな中、狙われている俺達が学校に行ってみろ。クラスメート達がどんな危険に巻き込まれるかなんて、わかったもんじゃない。クラスだけじゃなくて、学校全体を巻き込むかもしれないんだ。それなのに、のうのうと通えるわけが無いだろ』


 いつになく低い声で長い返事が返ってくる。実鈴は「そうね」と頷いた。


「その気持ちはわかるわ。私だって……いつも怖いから」



「え?」


 病院の中庭で電話をしていた相賀は、実鈴の気弱な声に目を丸くした。


『探偵っていう職業柄、恨みを買うことも多いのよ。まだないけど、いつか、私が捕まえた犯人やその関係者が復讐に来るんじゃないか、関係無い誰かを巻き込むんじゃないか、ってね。顔には出さないようにしてるけど、いつも怖いのよ』


 笑みを含んだ声だが、相賀にはわかった。電話の向こうの実鈴は、きっと、壊れそうな表情をしている。


「……そうか」


 なんとかそれだけ言い、黙り込む。なんて声をかけていいかわからなかった。


『……ごめんなさい、こんな話して。大丈夫。もしクラスメートになにかあっても、私が守るから』


「……ああ」


『長電話してごめんね、みんなによろしく』


「ああ」


 電話を切った相賀は「通話終了」の文字をじっと見つめた。


「……無茶すんじゃねえぞ」


 実鈴は、自分の身を顧みないところがある。相賀達を守るためにベクルックスの銃口の前に飛び出した時は、もうダメかと思った。


「早く、全部終わらせなきゃな」


 スマホをポケットに入れた相賀は、病院の中に入っていった。

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