第189話 責任

「……なあ、翔太。ちょっと話さないか?」


「? いいけど……」


 病室に戻った相賀は、翔太を連れて最上階の屋内庭園にやってきた。


 翔太は点滴台を引いていたが、一人で歩けるほど回復していて、頭のガーゼも小さくなっていた。


「で、どうしてここに来たの? わざわざ来なくてもいいんじゃない?」


 ベンチに座った翔太が首を傾げると、相賀は翔太の隣に腰を下ろした。


「……ちょっと、気分を変えたくてな。――お前、この後どうする気だ?」


「…………」


 尋ねられた翔太はオッドアイを静かに伏せた。


「……わかんないよ。クラスメートを巻き込むくらいなら、学校だって行かなくていい。怖くて仕方ないんだ。また……失うのは……」


 声も手も震えている。オッドアイの奥には、恐怖の色が浮かんでいた。


「……失わせねーよ」


 相賀が静かに口を開く。


「俺が責任もって、全部守る。全部俺がまいた種だ。最初からそのつもりなんだから」


 全てを知っている翔太には、その言葉がどれだけの覚悟を含んでいるかがわかった。


 だがそれは、まだ中学生が背負うには重すぎる覚悟だ。


(多分君は、僕のことを「自分のことを顧みない無茶なやつ」って思ってるんだろうけど……僕に言わせれば、それは君の方だよ)


 翔太はそっとオッドアイを伏せた。


 と、その時。


「――口だけなら、なんとでも言える」


 冷たい声が頭上から降ってきた。


 驚いて顔をあげると――


「伊月……!」


 いつの間にか、大沢伊月がベンチの側に立っていた。


 即座に立ち上がった相賀が、翔太を庇うように手を広げる。


「こんなところで撃たねえよ。――貴様が……貴様らがいくら足掻いても無駄だ。何も変わらない。組織われわれに逆らえると思うなよ」


 ベクルックスが静かに、しかし、圧のある声で言う。


「今まで散々逆らってきたけどな? 今更やめねえよ」


 相賀も負けじと言い返す。


「意地を張れるのも今のうちだ。組織に逆らった人間がどうなるか……貴様も知っているだろう、木戸。いや、――」


「…………」


 翔太が相賀を見上げると、相賀は舌打ちをした。


「その反応……高山には話していたのか」


「まあな。――帰れ、ベクルックス。今ここでお前とやり合う気は無いからな」


 睨みつけられたベクルックスはフッと息を吐いた。


「――何が起こったとしても、それは貴様のせいだからな、木戸」


「……っ」


 相賀は、吐き捨てて去っていくベクルックスの後ろ姿を苦々しげに睨んでいた。


「――やってみろ。お前らの思い通りにはさせない……!」


「…………」


 翔太はなにか声をかけることも出来ず、うつむいた。

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