第86話 迷惑なファン

「……またあなた達ですか」


 校舎を出た相賀は、昇降口付近に立っていた女子高生三人組に声をかけた。


「え! 君は……」


「何のこと?」


 セミロングの髪を巻いた女子が相賀を見て目を見張り、ロングボブの毛先をハネさせた女子がしらばっくれる。ロングの髪をハーフアップにまとめた女子はじっとスマホを見つめている。


 その三人は、去年の文化祭のときに体育館の前で騒いでいた女子高生達の内の三人だった。


「……翼がここで店やってるってSNSに上げたの、あなた達ですよね? さっき確認しましたが、あなた達のアカウントで間違いないですよね?」


 相賀はスマホを操作し、翼のことを投稿したアカウントを表示して三人に見せた。


「え? そんなアカウントじゃないよ?」


 ロングボブの女子がとぼける。


「あー……俺、結構機械関係に強くて。ちょっと調べればすぐにわかるんですけど。それが嘘だって言うなら、あなた達のスマホを見せてください。捨て垢で投稿しなかったのが悪かったですね」


 相賀の猛禽もうきんのような目で射貫かれた女子高生達は顔を見合わせた。


「俺、去年言いましたよね? こういうことしたら、翼が困るんだって。どうして投稿したんですか?」


 相賀が畳み掛けると、ロングヘアの女子高生はため息をついた。


「……だから? 何? 翼君のこと好きな人はいっぱいいるの。教えたってプラスなことしかないでしょ?」


 今度は、相賀がため息をつく番だった。


「……俺が前に言ったこと、何もわかってなかったんですね」


「は?」


 ロングヘアの女子高生が眉をひそめる。


「あなた達にとってはプラスでしょうけど、翼にとってはマイナスなことしかないんですよ。翼は、自分のファンが苦手なんです」


「はあ!? でたらめなこと言わないで!」


「でたらめじゃないですよ。本人がそう言ってましたから。正確に言えば、俺達に迷惑をかけるファン、ですが」



 宣伝のために校内をぶらついていた伊月は昇降口で言い争っている相賀と女子高生三人を見かけ、足を止めた。


(何やってんだ? あいつ……)


 気になった伊月は靴を履き替え、柱の陰に隠れて様子をうかがうことにした。

 


「あんた達に迷惑かかるなんて知らないわよ。あたし達はね、翼君のファンの一人として、情報を共有しただけ」


 ロングボブの女子高生が言った。


「……そうですか。ファンなのに、翼が嫌がることやるってどうなんですか」


「偉そうな口きかないで!」


 ロングボブの女子高生は相賀を突き飛ばした。


「っ……」


 尻餅をついた相賀がうつむく。


 柱の陰に隠れていた伊月は少し目を開いた。その時、反対側の柱の陰に誰かいることに気づいた。


「あんたに何がわかんのよ! あたし達はあんたと違ってずっと翼君を追いかけてるの! 翼君だって、ファンといるのは楽しいはずよ! あんたの思い込みで話さないで!」


「……ほんとにわからないんですね。じゃあ、本人に訊いてみましょうか」


 立ち上がった相賀は呆れた表情で言った。


「――いるんだろ? 出てきていいぞ」


 相賀は誰にともなく呼びかけた。


 柱の陰にいた伊月は一瞬顔を強張らせたが、反対側の柱から誰かが出てきた。


「え!?」


 女子高生達が目を見張る。


 柱から出てきたのは――ドラキュラのコスプレをした翼だった。

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