第85話 担当変更

 二人が教室に入ると――伊月が来ていた。


「――!」


 二人の間に緊張が走る。


「お前朝から来いよ!」


「……事件の捜査があった」


「だったら連絡くらい……」


 怒鳴る竜一に、呆れる永佑。


「お前、自分が何のコスプレするかわかってないだろ」


 と、慧悟が顔を出した。


「メール送っても見ないし、直接言っても聞いてないからな。だから今回は宣伝やってくれ。看板作ったから、これ首に下げて学校を歩いててくれ。もしくは受付の手伝いだけど……」


「……仕方ねえな。宣伝やるさ」


 伊月は慧悟が持っていた看板をサッと取ると、教室を出て行った。


「何であんな偉そうにするんだよ……」


 永佑がため息をついた。


 教室の入り口に立った翔太と相賀は険しい表情をしていた――。



 昼休みが終わり、仮想した後半グループが視聴覚室にやってきた。


「じゃあ実鈴、受付よろしくな」


 フランケンシュタインに仮装した慧悟が、天使に仮装した実鈴に声をかける。


「ええ」


 実鈴が頷くと、慧悟達は部屋の中に入っていった。


「えっと……フランケンシュタインと狼男、ミイラと黒猫、悪魔と魔女のペアで分かれ道に行ってくれ」


 ドラキュラのコスプレをした翼が指示を出し、慧悟と海音、光弥と柚葉、瑠奈と雪美のペアで散らばる。


 そして翼は出口付近にスタンバった。


 後半戦が始まって十分ほど経った頃。受付に座っていた実鈴は何気なく顔を上げ、目を見張った。



 一方、こころ達のステージを見に行っていた詩乃、拓真、相賀は廊下を歩いていた。


「あれ、ホンマに楽器演奏してたんか?」


「うん! こころちゃんは元々パーカッションだからドラムやってたけど、咲菜ちゃんはクラリネットだからギター弾いててすごかったね! 文化祭の準備部活もあって大変だったはずなのに……」


 詩乃は話しながら目を細めた。


「歌ってたのは誰なんだ?」


 相賀が口を挟んだ。


松谷まつたに純也じゅんや先輩。トロンボーンなんだけど、歌も上手いからやったんじゃないかなぁ」


 そんな他愛もない話をしながら階段に向かっていたとき、相賀がふと足を止めた。


「どないした? 相賀」


 気づいた拓真が尋ねる。


「……あれ、何だと思う?」


 相賀が指差した先には――視聴覚室があった。しかし、その前には人だかりができている。


「あれ、並んでないよね?」


 詩乃が怪訝そうな顔をする。


 制服や私服を着た女子高校生が何十人も集まっている。


「ほんとにここに翼君がいるの!?」


「マジ! SNSに載ってるもん!」


「会えるなんて感激〜!」


「……翼目当てで来たんか」


 女子高校生の会話を聞いた拓真が苦々しげに呟く。


(……もしかしたら)


 何かに気づいた相賀はスマホを取り出してSNSの画面を開いた。検索をかけ、スクロールしていく。


「とにかく、手伝おう!」


「ああ」


 詩乃と拓真が受付に向かって走って行くが、相賀はその場に立ったままだった。ある投稿を見つけ、スクロールを止める。


「……やっぱりか」


 小さく呟いた相賀は踵を返し、走り出した。

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