第14話 翔太の本心
「何でいるんだ!」
屋上でAに追いつかれたXは突然怒鳴った。
「え……」
驚いたAがその場で固まる。そこにRもやってきた。
「もう僕に関わるなって言っただろ!? 僕はもう誰も……っ、傷つけたくないから……もう誰も失いたくないんだ……」
大声が徐々に小さくなり、震えてきた。
「X……」
Aが呟いたその時――Xが振り返り、走り出した。マントの下に背負っているリュックの紐を掴みながら屋上から飛び出そうとする――!
「待て!」
Aは縁に足を掛けたXの右腕をつかんで引っ張った。
「ぐっ……」
この間撃たれた右上腕部が鈍く痛み、Xは思わずその場にしゃがみ込んだ。
「そんなケガで何ができるんだよ」
聞いたことのない、冷たい声がした。Xが思わず見上げると、冷たい目をしたAがXを見下ろしていた。
「そこまでして一人でいたいのか。カッコつけか」
「うるさい」
「自分はどうなってもいいのか?」
「うるさい」
Xがさっきより大きな声を出したが、Aは構わず続けた。
「お前の気持ちはよくわかる。でも――」
「何がわかるんだよ!!」
突然Xが怒鳴った。弾かれたように立ち上がり、Aの胸ぐらをつかむ。
「お前に何がわかる! 僕は家族を殺されてるんだ! 家族と暮らしてるようなやつに、僕の気持ちがわかってたまるか!!」
「待って!」
と、今まで黙っていたRが声を上げた。
「Aは……一人暮らしなの」
「え……」
Xが驚いてAの胸ぐらから手を離す。Aは息を付きながら乱れたジャケットの襟を直した。
「まだお前には言ってなかったな。俺は母親が死んで、父親はいないんだよ」
「っ……でも、殺されたわけじゃないだろ!?」
「……ああ……まあ病気だからな……」
微妙な間の後、Aは曖昧にうなずいた。
「でもな、大事な家族を亡くした気持ちはわかる。俺は父親も兄弟もいなかったけど、その分母さんを大事に想ってた。それはお前も同じだろ?」
「……」
Xは何も答えない。しかし、仮面の下から光るものが零れ落ちた。
ハッとしたXは頬を拭い、フッと微笑んだ。
「……そうだね。それじゃあ話は一回終わりにしようか」
「は?」
「邪魔者のお出ましだ」
Xが言い終わると同時に警備員が階段を駆け上がってきた。
「睡眠薬が切れたか!」
「行くよ」
Xは右腰の銃を引き抜き、更に左腰にも手を伸ばした。
「俺の合図で。三……二……一……今だ!」
RとAは残っていた催眠弾と閃光弾を投げつけ、Xは素早く左腰からも銃を引き抜き、二丁を連射した。
眩い光と濃い煙があたりを包み込んだ。
「うわっ!」
「クソッ! 前が見えねえ!」
警備員があたふたしている間に三人は屋上から脱出した。
夜風に、黒マントがなびく。
三人はある民家の屋根に座っていた。
「お前、両利きなんだな」
Aがふと、口を開く。
「まあね」
Xが頷く。
「とりあえず、僕は君達を信用する。特にA。君なら僕の気持ちをわかってくれると思うから。でも、やっぱり僕にはあまり関わらないでほしい。組織は僕を狙ってる。あいつらは僕を殺せれば誰がどうなってもいいと思ってるから」
「ああ……」
二人が頷くと、Xはパラグライダーを広げて飛び去っていった。
アジトに戻った相賀は哀しげな顔でパソコンの画面を見つめていた。画面には、幼い相賀と母親・真優が笑顔で映っている。
『ゴメン……ゴメン……ね……』
相賀の脳裏に、真優の最期の言葉が蘇る。それと同時に、涙を流す真優の顔もよぎった。
「っ……」
唇が白くなるくらい噛み締めた相賀はそっとウインドウを閉じた。
某ビルの一室で、会議が開かれていた。
「この怪盗Xは、ベクルックス様が殺したスパイの息子だ。組織の情報を知っているかわかったものじゃねえ。見つけ次第、始末しろ。ただし、RとAには危害を加えるな」
壁に掛けられたスクリーンにはR、A、Xの写真が映っている。
その前に立ったアルタイルはイライラしたように話した。
「そのXの始末の仕方は問わないか?」
突然、男の声が響いた。
「その声……前に自分に口を挟んだやつか?」
「おっ、覚えててくれたのか。でも名前は覚えててくれよ。今日付で一等星に昇進したんだからな」
口を挟んだ男が嬉しそうに言う。
「ほう……そんな情報聞いてないぞ」
「メールが届いてるはずだ。見てないのか?」
パソコンを操作していたデネブが口を開いた。
「そいつのコードネームはフォーマルハウト」
「秋の夜空に一つだけの一等星。そんなコードネームをベクルックス様にもらいました。よろしく」
部屋が薄暗いため男――フォーマルハウトの表情はよく見えないが、口元には飄々とした笑みが浮かんでいた。
「やっぱ気に食わねーな。余計な素振りを見せたら即刻撃ち殺すぞ」
「お好きなように」
「とにかく、Xは殺せればいい。方法は何でも構わん」
「了解」
男達が出ていったあと、アルタイルは舌打ちを繰り返した。
「アルタイル、うるさい」
「うるせぇ! あの笑いが気に入らねーんだよ……」
「落ち着け」
デネブはキッと言い放った。
「アイツは夏の三角でも冬の三角でもない。つまり一等星ではあるが、ボク達のところまでは来ない。少し考えろ」
普段本当に必要なことしか話さないデネブが珍しく長く話した為、アルタイルは思わずデネブを見つめた。
「……何だ」
「フッ。礼を言う」
アルタイルは笑みを浮かべて部屋を出ていった。
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