第99話 悪寒
「……今回はやめるか?」
「え?」
瑠奈は相賀の言葉に思わず振り返った。
「嫌な予感がする。今回は危険だ」
「やめないよ」
瑠奈は即答した。
「おい!」
「だって……そう言って私達を遠ざけて、相賀一人で行くつもりなんでしょ?」
図星を指された相賀は乗り出した身を引っ込めた。
「そんなのさせられないよ。嫌な予感がするなら尚更。もうそういうこと言うのやめてよ」
相賀は諦めたようにため息をついた。
「……わかった。悪かったよ。けど、注意はしてくれ」
「うん」
「一週間後に決行する。用意しておけ」
ベクルックスは目の前にいる三幹部に命令した。
「一週間後……ですか?」
アルタイルが遠慮がちに訊く。
「フォーマルハウトから連絡があった。一週間後に怪盗共が下部組織が持っているアクアマリンを盗みに来るらしい」
「その時に……ってことね」
ベガがトカレフを弄びながら頷いた。
「……今回は、Xは?」
デネブがキーボードを叩きながら訊いた。
「どっちでもいい。今回の目的は怪盗Aだ。そっちを優先しろ」
「わかった」
頷いたデネブはパソコンの画面に目を戻した。
(さて、どう出るか……楽しみだな、木戸相賀……!)
ベクルックスは口の端に歪んだ笑みを浮かべた。
「……っ!?」
突然、相賀の背中に悪寒が走った。思わず両腕で体を抱えるようにしてソファに座る。
「どうしたの?」
スマホを見ていた瑠奈が顔を上げた。
「いや……なんか悪寒が……」
「風邪でもひいた?」
「風邪じゃないけど……何なんだこれ……」
瑠奈は両腕をさする相賀を心配そうに見ていた。
「……じゃあ、最終確認だ」
一週間後。瑠奈達はコスチュームを着てアジトに集合していた。
「ターゲットがあるのは、隣町の外れにあるオフィス街にある十階建てのビルだ。このビルは奴らの下部組織のアジトになっている。アクアマリンはビルの地下にある金庫の中だ。俺と中江さんが盗りに行くから、瑠奈と拓真は一階で足止め、海音と朝井さんはここでナビしてくれ。敵の数は三十人ほど」
「いつもの人数やな」
「けど、あいつらの下部組織だ。油断はできない。今回はいつも以上に慎重になってくれ」
相賀が険しい顔で言うと、一同は表情を引き締めて頷いた。海音が新しい眼鏡を外す。
「よし、行こう」
一同はアジトを出ていった。
「そう言えば、今日は翔太は?」
目的のビルに向かいながら、Rが尋ねた。
「別の宝石盗む予定入れてたからパスだってさ。そもそも、このアクアマリンのこと知らなかったみたいだしな」
「なるほどね」
Rは頷き、ワイヤーを発射した。
「……」
怪盗達が民家からビルに飛び移っていくのを見上げていたベクルックスはスマホを取り出して耳に当てた。
「オレだ。怪盗共が来た。オレが指示するまで待機してろ」
電話を切ったベクルックスは近くに止まっていた黒い車に乗り込んだ。
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