第98話 粛清

 拘置所から脱走した組織の男達は、アジトにしていたビルとは別のビルの一室に立っていた。その前にベクルックスが仁王立ちしている。


「やってくれたな」


 ベクルックスが静かな声で言う。しかし、それだけで男達の背筋に冷たいものが走った。


「渡部財閥は政界にも顔が利く。少しでも邪魔になればと思って見逃していたが……オレが甘かった。失態だな。お前らは組織に入り込んでいる。……この意味、わかるよな?」


「ヒッ」


 ベクルックスの冷たい目に射抜かれ、細身の男が思わず悲鳴を上げた。


「たっ、頼む……許してくれ! 組織のことは、たとえまた捕まったとしても誰にも言わない! だから……っ」


 声を裏返しながら必死で訴える細身の男を、ベクルックスは蔑んだような目で見た。


「誰にも言わない? 貴様、自分の立場わかってんのか?」


「え?」


 顔中に汗をかいた細身の男が目を丸くする。


「貴様らの存在自体が組織の情報だ。貴様らの個人情報が警察に登録されたんだからな。警察が調べればすぐに組織のことがわかる。情報は消す。だが、ミスを犯した組織の人間は粛清対象だ。わかっていたよな? 命乞いなんか意味がねえんだよ」


 ベクルックスはジャケットの内ポケットから素早く拳銃を取り出し、引き金を引いた。消音器サイレンサーがつけられた銃口から小さな破裂音と共に弾が飛び出し、細身の男の眉間を貫く。


 ベクルックスはさらに銃を連射した。細身の男の後ろに立っていた仲間の男達が逃げようとしたが間に合わず、次々に弾に当たって倒れていく。最後の一人が倒れ、ベクルックスは銃を内ポケットに戻した。それと同時に、黒服の男達が部屋に入ってきた。


「片付けておけ」


 命じたベクルックスが部屋を出ていくと、男達は男達の遺体を運び始めた。



 アジトのビルに戻ったベクルックスはまっすぐに会議室に向かった。扉を開けると、大きなスクリーンの側の机でパソコンを操作しているデネブがいた。


「情報消したか?」


 ベクルックスが尋ねながら近寄ると、デネブはゆっくり頷いた。


「多少時間はかかったけど、なんとか」


 デネブの言葉に頷いたベクルックスは会議室を出ていった。



「脱走?」


 翌日。地下室に来ていた瑠奈は相賀の言葉を繰り返した。


「ああ。昨日実鈴から連絡が来た。拘置所にいたあの男達全員が脱走したそうだ」


「どうやって?」


「わからない。拘置所の防犯カメラはすべてハッキングされていて、映像が差し替えられていたから気づかなかったらしい。セキュリティは万全のはずの拘置所だ。それができるのは、俺達が知ってる中では一人」


「組織のハッカー、デネブ……」


 瑠奈が小さく呟くと、相賀は頷いた。


「ベガに会ったときの放送の声の主と考えて間違いないだろう。あいつは俺や海音より優れたハッキング技術を持っている。けど、それだけじゃ脱走できないはずだ。警察の中に手引きしたやつがいる」


「警察の中に……組織が……」


「それだけ組織の影響力が強くなっている。警察の中にまで手出してきやがった……」


 相賀はデスクに肘を付き、額に手を当てた。

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