第100話 豹変
『……おかしくないか?』
通信機からTの声が聞こえてきて、アジトにいたKは「うん」と頷いた。
「組織の人間を近づけるために防犯カメラも何も操作してないから、A達が来たってわかってるはずなのに……誰も来ないって……」
『宝石を移動させたとか?』
続いてUの声が聞こえた。
「いや、防犯カメラを
『Aはどう思う?』
Rが尋ねた。しかし、誰も返事をしない。
『あれ? さっきまでそこにいたのに……』
Uのきょとんとしたような声がする。
「何やってるんやAは……」
Tがため息をついた。
「とりあえず探そう。KとYは防犯カメラを見てみて」
『わかった』
『うん』
顔を見合わせて頷いたRとTは逆方向に走り出した。
「どこにもいない……何で……」
パソコンのディスプレイを見ていたKは険しい表情をした。何分割にもされたディスプレイにはビル中の防犯カメラの映像が映っている。
「死角はあるの?」
Yが尋ねる。
「ある。けど、返事をしてこないってことは何かあったと思うんだ。僕が探しているのはAじゃなくて、組織の人間」
「どうして?」
「Aが返事をしてこないのは誰かと戦ってるからだと思ってたんだ。だから、少なからず組織の人間が映っていると思ってたんだけどな……」
Kは言いながら別のウインドウを開き、キーボードを打ち始めた。
Rは五階の廊下を走っていた。すると、Uから通信がきた。
『ごめん、やっぱり、Aがいないと盗めないよぉ……』
いつになく気の弱そうな声に、Rは思わず足を止めた。
「じゃあ、先にAを見つけよう。UはTと合流して。私は五階から下を探すから、もっと上の階をお願い」
『うん』
『ああ』
二人の返事を聞いたRは再び走り出した。
「……嫌な予感がするんだよ」
キーボードに手を置いたKがポツリと言った。
「え?」
Yが振り返る。
「今までよりもっと危険な気がするんだ。ずっと胸がざわざわしてて……」
「……」
「皆、用心して。何か変だ」
Kはヘッドセットのマイクを口元に近づけて言った。
「うん、わかってる」
Rは頷きながら廊下を走った。と、その足が止まる。
廊下の先に――Aが背中を向けて立っていた。
「A!」
RはホッとしてAに走り寄った。
「良かった、急に返事がなくなったから……A?」
反応がないAに、Rは訝しげな表情をして呼びかけた。
すると、AはRを振り返った。Rの目が見開かれる。
「相賀……?」
相賀はサングラスをかけていなかった。ネクタイを緩めていて、ジャケットを肩にかけている。何より、目が変わっていた。目つきが鋭くなり、冷たい光が宿っている。
「え……どう、し――きゃっ!」
相賀は素早くRの首をつかみ、側の壁に押し付けた。締められたRの顔が歪む。
「相、賀……っ、何を……」
自分の首を締めている相賀の手をつかんで引き離そうとするが――できない。
(何で……! 相賀は……こんなに力強くないのに……!)
「何を? ハッ……本当にお前らは甘いな」
今まで見たことがない冷酷な笑みに、Rの背筋に冷たいものが走った。
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