第101話 仲間の裏切り

『大変だ! Rが!』


『四階の廊下に急いで!』


 通信機からKとYの焦った声が聞こえてきて、TとUは階段に向かって駆け出した。


「何があったんや!?」


『相賀が……相賀がおかしいんだ!』


『瑠奈が危ないの!』


 二人の切羽詰まったような声に、Tは「クソッ」と歯噛みした。


「海音の予感が当たってしもうた……」


「何があったの……」


 Uの頬に汗が伝った。


 四階の廊下に辿り着いた二人は衝撃的な光景を目にした。コスチュームを着崩した相賀がRの首を締めていたのだ。


「なっ……何やってるんや相賀!!」


「瑠奈ぁ!!」


 二人の叫び声に、相賀は呆れた顔をして振り返った。


「本当にお前らは……仲間だの友達だのくだらないことばかり並べて……虫酸が走る」


 TとUは吐き捨てる相賀を睨みつけた。


「何や……何なんやお前は! 相賀やないやろ! 誰なんや!!」


「瑠奈を離して!!」


「人の心配より自分の心配したらどうだ?」


 下を向いていた相賀は顔を上げ、二人を振り返った。


「俺は正真正銘の木戸相賀だ。けど、お前らの仲間じゃない。組織のスパイ、フォーマルハウトなんだよ!」


「!?」


 一同が目を見開く。


「相賀君が……裏切り者……?」


「そんなん嘘や!」


 呆然とするUの隣でTが怒鳴る。


「嘘……でしょ……? 相賀……!」


 Rが必死に叫ぶが、相賀――フォーマルハウトはため息をついた。


「少しは現実を受け入れることを学べよ。ほんとに……信用しろだの何だの、ウザかった。現実を見もしないで、仲間だって理由だけで動こうとして。笑いこらえるのに必死だったよ」


 Rは薄ら笑いを浮かべるフォーマルハウトを呆然と見ていた。しかし、ぐっと顎を引いて足を動かす。


「動くな」


 刹那、拳銃を向けられて動きが止まる。


「少しでも動いたら撃つ」


 言葉とともに首を絞める手の力が強くなる。


「うっ……」


『瑠奈!!』


『どうすれば……!!』


 通信機からYとKの焦ったような声が聞こえてきて、Tはギリッと奥歯を噛み締めた。


 早く助けたいのに、銃を向けられて動けない。下手したらRが撃たれてしまう。


 その時――Rの手から力が抜けた。フォーマルハウトの手をつかんでいた手が離れ、がくりとうなだれる。


「――! 瑠奈ぁぁ!!」


 Uの絶叫が響き渡る。


「……」


 フォーマルハウトがRの首から手を離すと、Rは壁に背中を滑らせて倒れた。TとUに銃口を向けながらRの首筋に手を当てる。


「お前……!!」


 Tが鬼の形相で身を乗り出す。その瞬間、フォーマルハウトは銃を撃った。弾がTの足元に着弾し、Tがたたらを踏む。


「死んじゃいねぇ。気絶しただけだ」


 フォーマルハウトはそう言って体を起こした。そして銃を二人に向ける。


「さて、どうする? 瑠奈は俺の手に落ち、このビルには仲間が何人も潜んでいる。お前らは圧倒的に不利だ。まだ戦う気か?」


 煽るように言ったフォーマルハウトは歪な笑みを浮かべた。


『ダメだ……このままじゃ歯が立たない。一回退避だ!』


 Kが叫ぶ。TとUは即座に催眠弾と閃光弾を床に投げつけた。


「逃げるか……フッ、まあいい」


 ズボンのポケットに両手を突っ込んだフォーマルハウトはくるりと振り返った。いつの間にか、そこにアルタイルがいる。


「運んでおけ」


「はい」


 フォーマルハウトに命令されたアルタイルは気絶したRを肩に担ぎ、廊下を歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る