第102話 囚われた怪盗達

 フォーマルハウトから逃げ出したTとUは三階の空き部屋にいた。


「相賀があんなことをするなんて、ありえへん」


 開口一番、Tはそう言った。そしてサングラスを外して額の汗を拭う。


「うん……詩も信じられないよ」


 Uもサングラスを外してうつむく。


『僕だって信じたくない。けれど、実際、こういうことが起こってるんだ』


 Kが言うと、一同は重い空気に包まれた。


『……瑠奈を助けないと』


 空気を破るように、Yが震える声で言った。


「……そうだね。そうすれば相賀君のこともわかるかもしれないし」


 詩乃が頷いた。


「せやな」


 拓真も同意する。


『わかった。調べるから少し待ってて』


 Kの声とともに、キーボードを打つ音がかすかに聞こえてきた。



 フォーマルハウトは薄暗い廊下を歩いていた。コンクリートがむき出しになっていて、窓もなく殺風景な廊下だ。フォーマルハウトの靴音だけが響き渡る。


 フォーマルハウトは廊下の突き当たりにある扉の前に立った。扉の横には指紋認証センサー付きのキーパッドが設置されていて、フォーマルハウトはキーパッドに暗証番号を打ち込んだ。そして指紋認証センサーに右手の人差し指を当てる。


 ピッと小さな音がして扉が開いた。中は六畳ほどのコンクリートがむき出しになった部屋だった。窓がなく、天井に吊るされた電球だけが照らす薄暗い部屋には簡易ベッドとモニターが設置されていて、簡易ベッドには――木戸相賀が眠っていた。


 相賀の右手首には手錠がはめられ、簡易ベッドの柵に繋がれている。


 不気味な笑みを浮かべて相賀を見たフォーマルハウトは踵を返し、部屋を出ていった。



『……見つけた!』


 少しの間があって、Kが叫んだ。


『五階の小さな物置部屋にいる! 今のところ廊下にほとんど組織の人間はいないからチャンスだ!』


「わかった! 行くでU!」


「うん!」


 サングラスをかけて頷きあったTとUは部屋を出た。


『気をつけて。部屋の中には防犯カメラがなかったから確認できなかったけど、組織の人間がいる可能性が高いから』


「OK」


 二人は返事をしながら階段を駆け上がった。



 廊下を歩いていたフォーマルハウトのスマホが震えた。足を止め、電話に出る。


『怪盗共が動き出した。Rのところに向かってる』


 デネブだった。


「動き出したか。――計画通りに動け」


『わかった』


 電話が切れ、フォーマルハウトはニヤリと笑いながら再び歩きだした。



 気絶していたRは、狭い物置部屋で目を覚ました。


「……」


 ゆっくりと体を起こす。脳裏に蘇ってくるのは、自分の首を締めながら冷酷な笑みを浮かべる幼馴染み――。


(相賀があんなこと、するわけない)


 そう信じたい。けれど、事実はそれの逆だ。


(どうして……)


 その時、扉がガチャガチャと動き始めた。


「!?」


 驚いて振り返る。ピッキングの音がして、開いた扉の先にいたのは――TとUだった。


「良かった!」


 Uが笑って近づいてくる。


「二人とも……相賀は?」


 Rが尋ねると、二人は暗い表情をした。Rはそれで全てを察した。


「そう、なんだ……」


「けど、このまま終わらせる気はないで。相賀に直接話聞かなあかん」


 Tの力強い声に、Rは頷いた。Uも決意の色を瞳に宿らせながらRを拘束していた手錠を外す。

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