第93話 人質

「相賀! 待って!」


 瑠奈達が慌てて追いかけ、その場には雪美と実鈴が残された。


(頼む、海音……無事でいてくれ!!)


 その時、ザザッ……と通信機からノイズが聞こえてきた。


「――!? 海音!?」


 相賀は足を止めて叫んだ。


 相賀を追いかけてきた瑠奈達も気づき、通信機を取り出す。


『……皆、誰か聞こえる?』


「聞こえるぞ海音!!」



 通信機から相賀の声が聞こえてきて、海音はハッとした。そして頬を緩ませる。


「良かった……」


 息を付きながら壁によりかかる。


『大丈夫か? ケガとかしてへんか!?』


「うん、大丈夫。ありがとう」


(……本当に、ありがとう)


 心の中で礼を言う海音の視界が少しぼやける。


 その時、急に部屋のドアが開いた。


「――!?」


「なっ……!? テメェ、どうやってロープを解いた!?」


 驚いて振り返った海音に、サングラスをかけて黒スーツを着たガタイのいい男が近寄ってきた。


「っ……」


 後退った海音は壁に背中をぶつけた。


『海音? おい、大丈夫か!?』


「なるほど、眼鏡のレンズか。金持ちのボンボンだと侮りすぎたな」


 落ちていた壊れた眼鏡を見た男はフッと笑みを浮かべた。


「……なぜ、僕がそうだとわかった?」


 海音は社交的ではない。人前に出るのは、ミルキーウェイ号のときのような関係者だけが集まるパーティーの時くらいだ。テレビなどが入るような会見などはほとんど唯音が出ている。それなのに、どうして海音が渡部財閥の御曹司だとわかったのか――。


「ちょっとハッキングさせてもらっただけだ。テメェを誘拐した目的はわかるよな?」


 男が不気味な笑みを浮かべながら訊いて来る。背中に悪寒が走り、頬に汗が伝った。


「……そんなのに、渡部財閥は屈しない」


「さあ、どうかな。かわいい息子が誘拐されたとなれば、いくらでも出すだろうよ」


 嘲るような口調で言った男は素早い動きで海音の首筋にスタンガンを当てた。


「うああああああ!!!」


 体中に電流が走った海音はその場に崩れ落ちた。



 突然、通信機から海音の悲鳴が聞こえてきて、一同はハッとした。


「海音? 海音! 返事しろ!!」


「渡部君!!」


「何があったんや!?」


 相賀、翔太、拓真が叫ぶが、もう返事は聞こえてこない。



「……ったく、手間かけさせやがって。……あ?」


 海音をスタンガンで気絶させた男は、海音の右耳に何かがついていることに気づいた。


「なっ……通信機!?」


 男は慌てて海音の耳から通信機を外した。そして床に落とし、踏み潰す。



 通信機からバチンッという大きな音が聞こえてきて、瑠奈は思わず通信機を外した。


「クソッ! 通信機が壊れた!」


 相賀が歯噛みする。


「雪美、場所特定できた!?」


 詩乃が叫ぶ。


『……うん、やっぱり、あのビルだった』


 待機している雪美が震える声で言った。


「よし。――行こう!」


 相賀が叫び、一同は真剣な表情で頷いた。

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