第94話 悪知恵
「アジトを知られたかもしれないだと!?」
廃墟となったビルの一室に、男の怒号が響いた。
「ああ。あのガキ、通信機持っててよ。誰かと話してたみたいなんだ。すぐに壊したけど、どれぐらい話してたのかは分からねぇ」
海音を気絶させたサングラスの男と、長髪の男が話している。
「クソッ……アジトを移すしかねぇな。用意しろ!」
「ああ」
長髪の男が部屋にいた男数人に指示を出し、デスクの上に散らかっている荷物をまとめ始めた。
「あのビルだな」
相賀達は海音が監禁されている廃ビルの近くの路地にいた。そっと顔を出してあたりを見回す。
「あのビル、元々一階にレストランが入っていただけで上の階は使われてなかったらしい。アジトにするには絶好の場所だな」
『佐東さんから連絡がきたよ。あと十分でそっちにつくって』
雪美が話す。
「つまり、制限時間は十分か」
翔太が険しい表情をする。
「ああ。俺達が暴れてるの見られたらまずいからな。警察には犯人を捕まえるのだけやってもらおう。――行くぞ」
一同はそっとビルに近づいていった。
「おい! そっちの書類まとめたか!?」
「まだだ!」
「早くしろ! あと五分で出るぞ!」
部屋の外から聞こえてくる怒号で海音は目を覚ました。
「ん……」
まだ体が痛い。見ると、さっきよりも手足がしっかり縛られているのが目に入った。そして口に何かを貼られている感触がある。
(流石に念を入れるか……)
その時、再び部屋の扉が開いた。
「っ!」
入ってきたのはさっき海音を気絶させた男だった。
「チッ、もう目を覚ましやがったか。まあいい。別のアジトに移動する。大人しくしとけよ」
サングラスの男は海音を持ち上げようと手を伸ばす――が、海音は転がってその手を避けた。
「大人しくしとけって言ったろ!! また気絶させられてーか!」
「……っ」
海音は激高する男を睨みつけた。
「お前ここにいたのか!」
突然、細身の男が走ってきた。
「緊急事態だ! すぐに来い!」
「何があった?」
「ガキが数人、ビルに入ってきたんだよ!」
「んっ……」
海音は思わず声を漏らした。相賀達だ。自分を助けに来てくれたのだ――。
「ガキ? そんなのに俺が行く必要あんのか?」
「バカみてぇに強い女のガキがいるんだよ! そいつにもう仲間の半分くらいやられてんだよ!」
焦る細身の男とは対象的に、サングラスの男は飄々としている。
「何呑気な顔してんだよ!」
「アホかお前」
「はぁ!?」
「ビルに入ってきたガキはこのガキの仲間だろ? つまり……」
と素早く海音の襟首を掴む。
「っ!!」
「こいつを使えばいいだろ。せっかくオレ達の手の中にあるんだからよ」
「へぇ……なるほどな。お前、ほんとに悪知恵が働くな」
落ち着いた細身の男がニヤリと笑う。
「……」
襟首を掴まれた海音の頬に汗が伝う。
(まずい……っ、皆……逃げて……)
海音は男達を睨むことしかできなかった。
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