第60話 奇襲
怪盗達は金庫室の前に集まっていた。
「電波妨害は有り得ないな。あいつらに俺の機材を分析するチャンスはなかったはずだ」
Aが顎に手を当て、難しい表情をする。
「じゃあどうして……」
Uが誰にとも無く言う。
「……機材の故障とかなら、良いんだけどな」
金庫室のそばの壁に寄りかかっていたXが仮面の奥のオッドアイを光らせながら言った。
その時、全員の通信機からザザッとノイズが聞こえた。
「K!?」
「Y! 聞こえる!?」
『……皆!』
通信機からKの声が聞こえた。
「K、どうしたんだ!?」
Aが慌てて訊く。
『ごめん、Kの部屋にいたんだけど通信がなんか悪くて……。今リドデッキにいるの』
「外に出たら通信が戻った……? そんなことある?」
Rが顎に手を当てて考え出す。
「……!! 二人共逃げろ!!」
考えていたAが何かに気づき、叫んだ。
『それは罠だ!!』
突然叫ばれ、リドデッキのテーブルに置いたパソコンを操作していた二人は戸惑った。
「え? どういうこと?」
Yが訊き返す。
その時、背後から何人もの足音が聞こえた。
「!」
Kは素早くヘッドセットを外して振り返った。
そこに立っていたのは――アルタイルだった。背後には、銀髪を海風になびかせるベガやシリウスら冬の大三角もいる。
「アルタイル……!」
Kが呟く。
『アルタイル……!』
通信機からKの声が聞こえ、一同は目を見張った。
「まずい! 海音と朝井さんが!」
Aが叫ぶ。
RとXはもう駆け出していた。
「待って!」
UとTも駆け出し、Aは遅れて後を追った。
「なんで……ここに……」
立ち上がったYが呆然と言った。Kが腕を上げ、Yをかばうように立つ。
「……何の用だ?」
「ハッ……。この状況でも物怖じしないのか。流石渡部財閥次男だな」
「!?」
Kは目を見張った。
正体がバレている――!?
確かに、K達は顔を隠したりはしていない。しかし、ハッキングで自分達の姿は防犯カメラなどに映らないように細工しているのだ。
だから、バレるはずがない。
「貴様らの正体ならとっくに割れている。バレていないとでも思っていたのか?」
「な!?」
Aは通信機から聞こえたアルタイルの声に思わず足を止めた。
「バレてる……!? 何で……」
Aも訳が分からなかった。
(……そうか!! クソッ!)
いや、知っていて当然か。
ここは渡部財閥が所有する豪華客船・ミルキーウェイ号だ。組織の連中が潜り込んでいたのなら、当然渡部財閥の人間のことを調べているだろう。そこで海音の顔を知っていたのなら、辻褄が合う。
(まずい……!! 海音がKだと露見したら一巻の終わりだ!!)
Aは再び走り出した。
(Kが海音だとわかったのなら、後は海音の交友関係を洗い出していけば芋づる式に俺達の正体に察しがつく。だめだ……。今ここで終わってしまったら今までやってきたことが……)
「皆!!」
Aは通信機に叫んだ。
「地下のアリーナへ行け! 奴らはおそらく、二人をボートで連れ去る気だ!!」
『なんやて!? けど、もうリドデッキに着いてまうで!!』
「俺が行く! 二人ぐらいアリーナに来い! リドデッキに奴らがいるなら倒してくれ!!」
『OK!』
RとXが返事をした。
(あいつらのことだ、すぐに俺達の正体をバラすことはなくても……。社会的に殺してくる可能性はある。そんなことされたら、皆が……)
クラスメート達が、学校の皆が、瑠奈達の家族が、危険に晒される。
「んなの……ぜってーさせねぇ……!!」
いつになく乱暴な口調で呟いたAはさらにスピードを上げて廊下を駆け抜けた。
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