第205話 大沢那月の告白
「――怪盗Mとして、組織に歯向かったから、殺られたらしい。けど、伊月の母親は、伊月が産まれてすぐに殺されている。他の母親もそうだ。なんで俺の母さんだけが、死んでいなかったのか。……笑っちゃうよな。その理由が、佳月が母さんを本気で愛していたから、なんて」
相賀はうつむいたまま淡々と話していく。その声には感情が乗っていない。笑っちゃう、と言いながら声は笑っていない。
「母さんの手紙に書いてあったんだ。事情を知っている友達がいるから、星の丘に行けって」
「それって……」
心当たりがあるRが声を上げる。
「ああ。瑠奈の母さんだよ。瑠奈は知らなかったかもしれないけど、色々世話してくれてたんだ。それで、中学生になって怪盗になって、こんなことになってるってわけ」
フッと息を吐いた相賀はようやく顔を上げた。その目には光がなく、今にも壊れてしまいそうな表情をしている。
「なんで……なんで黙ってたんや!」
Tが怒鳴る。
「俺だって、兄弟のことは知らなかったんだ。けど、あの時――伊月が俺に成りすました時に、大沢佳月のところに連れていかれた時に、言われたんだ」
「だから、あの時……」
ようやく、Rは合点がいった。なぜ、あの時から相賀の様子がおかしかったのか。その謎が、全て解けた。
「ちゃう! オレが言うてるのはそういうことやない! 母親のこと、なんで黙ってたんや!」
どうして怪盗になった時、教えてくれなかったのか。
母親の仇が組織だったのなら、教えてくれていたって良かったはずだ。黙っている理由があったのか。拓真にはわからなかった。
『違うよT。相賀が黙っていたのは、多分……』
Kがそっと口を開く。
「……それは、言いたくなかっただけだ」
変に同情されたくなかった。皆は、優しいから。話したらきっと、心配してくれる。それが嫌だった。皆とずっと、一緒にいたかったから。
それももう、叶わないが。
「――な、なあ、オレ、何もわかんねえんだけど!」
今まで黙っていた慧悟が声を上げた。
「なんだよ兄弟って!? 組織とか殺されたとか、さっきから何言ってんのか全然わかんねえよ!」
きっと、この状況も、まだよく理解出来ていないのだろう。当然だ。何も知らないただの中学生なのだから。
「……わからなくていい。これは裏社会に関する話だ。皆が首を突っ込んでいい場所じゃない」
相賀が首を振る。
「……まあ、ここにいる時点で片足を突っ込んでるようなものだけどな」
相賀が話している間、ずっと黙っていたベクルックスがようやく口を開いた。
「そういうわけで、こいつは組織にも入ってねーがアクルックスなんてコードネームをつけられてる。将来的には入ることになるがな」
「……入らねえっつってんだろ」
相賀が初めてベクルックスに目を向ける。その真っ暗な目と表情は、ベクルックスによく似ていた。
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