第204話 木戸相賀の過去
「嘘……」
絶叫の余韻も消え、痛いほどの沈黙を破ったのは、Rだった。
「嘘でしょ……相賀……!」
ベガから開放されたAは、ふらふらと数歩歩き、フェンスに寄りかかった。うつむいていて、表情は見えない。
「――ごめん」
か細い声だったが、その一言が全てを物語っていた。
「…………」
全てを知っていたXはそっとオッドアイを伏せた。
「……全部、話すよ。ほんとはもっと、早く話すべきだったんだけど」
相賀はうつむいたまま話し始めた。
「……俺の名前、木戸相賀は偽名だ。本名は
『腹違い……』
Kが静かに呟く。
「俺の父親――大沢佳月は、俺の母さんの他にも女を作ってたらしい。組織の人数を増やすためにな。それで、俺の母さんは……殺されたんだ」
「――!?」
一同が驚いて目を見開く。
相賀は、話しながら当時のことを思い出した。
――あれは、小学四年生の冬だ。日曜日だった。
『――那月、ご飯だよ』
『はーい』
真優に呼ばれ、リビングで昼の情報バラエティ番組を見ていた那月はダイニングへ向かった。テーブルに乗っていたのは、湯気をあげるホットケーキだった。
『いただきまーす』
バターとはちみつがたっぷりかかったホットケーキを頬張り、点けていたテレビに目を移す。
そこでは『夜空が綺麗に見える場所』がランキング形式で発表されており、ちょうど三位の発表だった。
『三位の場所は……星の丘です! 小さな町ですが、名前の通り美しい星空を見ることが出来ます。天体ショーがある日は、町外れにある丘に天体観測マニアが集まるんだとか』
MCの男性が星空の写真を見せながら説明をする。
『へえ、こんなに星が見える場所あるんだね、母さん』
この頃から天体が好きだった那月はワクワクしたような顔でテレビに釘付けになっていた。
『大きくなったらここに住もうかなあ』
『そんなことしたら、那月、天体観測以外のことやらなくなっちゃうんじゃない?』
真優がからかうように言った。
『そんなことないよー』
少し膨れっ面になった那月を見て笑った真優は、コップに入った牛乳を飲んだ。と、
『うっ……!』
顔を歪め、喉を押さえた。手から滑り落ちたコップが割れる音が響く。
『母さん!?』
またテレビに目を戻していた那月は、コップが割れる音に気づいて振り返った。床に倒れる真優を見て、慌てて駆け寄る。
『母さん! 母さん!?』
真優の肩を揺さぶるも、真優は視点が定まらない目で那月を見上げた。そして那月の頬に手を添える。
『っ……ごめん……ごめん……ね……那月……』
真優の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。そして、その手が床に落ちる――
『……母さん? 母さん! 母さんっ!!』
いくら呼びかけても、真優はもう返事をしてくれなかった――
警察が調べたところによると、真優のコップに入っていた牛乳に青酸カリが混入していたらしい。殺人事件として捜査されていたが、手がかりは全くと言っていいほど見付かっていない。
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