第201話 おまけ

「で?」


 ベクルックスは真っ暗な目でXとAを見据えた。


「どうする気だ?」


「お前を捕まえる。全員もろともな」


「……もう少し動揺するかと思っていたが」


 ベクルックスの無表情の中で、眉がピクリと動く。


「今更だよ」


 Xが自虐的な笑みを浮かべる。


「いつかはバレる日が来ると思ってた。そもそも、お前がクラスに来た時点で察してたし」


 空気がまた、ピリピリと張り詰める。


「ただ、一つ教えてくれ。僕達の正体をバラして、どうするつもりなんだ?」


 警察に通報しようがメディアに売ろうが、実鈴は怪盗の正体を知っている。実鈴が情報を止めることはわかっているだろう。


「……別に、貴様らの正体はおまけだ。目的は違う」


 ゆらゆらと首を振ったベクルックスは次の瞬間、Xの目の前に迫っていた。


「っ!」


 繰り出された右ストレートを紙一重で避け、側転をして構える。


 再び戦闘が始まった。



「……よろしかったのですか? 海音様、雪美様」


 運転席に座った宇野は、ビデオ通話を切ったKを振り返り尋ねた。


「……あそこで、僕達の正体だけバラさないわけにもいかないからね。それに、いつかは皆にバレることだったんだ。このタイミングだったってだけで」


 自嘲気味に笑ったKは膝に乗せたパソコンに目を向けた。そこには、五分割にされた画面が映っている。


 学校の屋上には防犯カメラがない。そこで今回は、全員のコスチュームの胸ポケットに小型カメラを仕込んだのだ。その映像はリアルタイムでKとYのパソコンに送られる。


「なんなんだろ、おまけって」


 Yがぼそっと呟く。


「他に目的があるらしいけど、それなら、なんでわざわざクラスに来たのかがわからない。僕達の正体をバラすためだと思ってたんだけど……よく考えたら、幹部をこんなに連れてくる必要ないんだよね」


 実鈴がいるにしても、人質にしてしまえば怪盗達が迂闊に手を出せないのはわかっていただろうに。


 ヘッドセットをつけたKは険しい表情でパソコンを見つめた。


「……一体、何が目的だ……?」



「それで? そんなボロボロで、俺に勝てるわけないのに」


 ベクルックス達のやり取りを楽しそうに眺めていたフォーマルハウトは実鈴に視線を向けた。


 少し回復はしたものの、まだ戦える状態では無いのに、クラスメート達の前に立ち塞がっている。


「……連れてきたのは、私の責任だから。勝とうなんて思ってない。皆に手を出さないで」


 いつもの凛々しい声では無い。どこか縋るような声だった。


「俺にまだ情があると思っているのか?」


 ハッと嘲笑したフォーマルハウトは目に鋭い光を宿した。


「わかってねえようだから教えてやる。お前も紬も、俺にとっちゃただの駒だ。お前の家に行った日からあの日まで、そうとしか思っていないお前のお願い事なんて、聞く価値もない」


「…………っ」


 実鈴は奥歯を噛み締めた。


「……そうね、貴方にとってはそうだったかもしれない。でも……それでも……! 私達にとっては、大事な家族だったの……!」


 悲痛な声が響く。血が繋がっていなくても、大空にとっては嘘だったとしても。実鈴と紬にとって、大空と過ごした日々は本物だ。こんなことになった今でも、その想いは変わっていない。

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