第202話 傷
「大事な家族、ねえ……」
フォーマルハウトは自虐的に笑った。
「そんなもんになった覚えは無い。産まれた時から、ずっと」
「え?」
実鈴は目を見開いた。が、フォーマルハウトはすぐに嘲笑を浮かべる。
「まあいい。俺も、赤の他人のそいつらに手を出したい訳じゃない。そこにいる限り、巻き込まれる可能性は高いけどな」
吐き捨てたフォーマルハウトは拳を握った。
「だがお前は別だ、実鈴。どうせお前も俺の事を倒したかったんだろ? やれよ」
「…………」
実鈴は呆然とフォーマルハウトを見つめた。
『そんなもんになった覚えは無い』
そう言った時の、あの自虐的な笑み。実鈴は初めて、大空の奥にある傷を見たような気がした。
実鈴の家に来るまで、フォーマルハウトに何があったのかはわからない。けれど、一生かけても治らない傷があるのではないか――そう思った。
「来ないのか?」
フォーマルハウトが煽るような口調で言う。
「ならこちらから――」
そう言いかけた時。
「きゃああああ!!」
甲高い悲鳴が響いた。それとほぼ同時に、大きな音が鳴る。
実鈴がハッと振り返ると、シリウスに吹き飛ばされたUがフェンスに寄りかかるように倒れていた。
「詩ちゃん!」
「中江!!」
一同が声を上げる。
「U!!」
Tが慌てて駆け寄ろうとするも、シリウスとプロキオンに阻まれる。
「佐東!」
「っ!」
永佑の声に気づいた実鈴が振り返ると、フォーマルハウトは実鈴のすぐ目の前に迫っていた。
(避けられない――!)
『佐東さんが危ない!』
通信機からのKの声に、Aはハッと振り返った。
「実鈴……!」
ナイフを持ったベガがAの腕に一閃を叩き込もうとするが、それをギリギリでかわす。
(やべえ、あいつじゃまだどうにかできるわけ……!)
だが、ここからでは間に合わない――!
その時。フォーマルハウトの側頭部に拳銃が突きつけられた。
「――おい。何邪魔してんだよ」
フォーマルハウトは実鈴にぶつかる寸前だった拳を下ろし、拳銃の持ち主を睨みつけた。
「それはオレのセリフだ。命令を無視するな」
拳銃を持ったベクルックスは鋭い目でフォーマルハウトを見ていた。
「『佐東実鈴を行動不能にする』。それが貴様に下した命令のはずだが?」
「動けてるじゃねえか。まだ命令を達成してねえよ」
「これくらいならもう邪魔にもならないだろ。ボスの命令を忘れたのか? 目的は違う。貴様が手を出すと相手が半殺しになる。佐東はもういい」
二人の間に、バチバチと火花が散る。
「……お前、本当にどうした? 以前のお前なら、ここでこいつを殺したって何も言わなかったのに」
「……うるせえ」
拳銃を下ろしたベクルックスは実鈴の後ろにいる一同に目を向けた。
「っ……」
真っ暗な目に射抜かれた永佑が半歩下がる。
「……そこを動くな。巻き込まれたくなければな」
そしてくるりと振り返り、歩いていった。
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