第200話 怪盗達の正体

 屋上についた永佑はドアノブをひねった――が、ドアは開かない。


「え、どうして!?」


 屋上のドアは、外側にはドアノブがついてないが、内側にはサムターン式の鍵がついているだけで、簡単に開けられる。それなのに、開かない。


「何かが置かれてるからつっかえてるのかもしれないです。ドアは動いてるので、強引に押し開ければ、行けるかも」


「わかった。手伝ってくれ!」


永佑の声に、香澄と実鈴以外が扉に近寄った。


「行くぞ。せーのっ!」


 掛け声に合わせ、思い切り扉に体当たりする。少しだけ、扉が開いた。


「もう一回!」


 何度か体当たりを繰り返すと――人ひとりが通れるくらいの隙間が出来た。どうやら、コンクリートブロックが積み上げられていたらしい。


「行かせてください!」


「実鈴ちゃん!?」


 香澄の腕を振り切り、実鈴は屋上に飛び出した。


「実鈴!?」


「――来たか」


 Xの声に振り返ったフォーマルハウトがニヤリと笑う。そして、実鈴に気を取られているXに回し蹴りを放った。


「ぐはっ!」


 ギリギリで反応したものの、避けきれなかったXが吹っ飛び、フェンスに叩きつけられる。


「お前のことだから、止められてても来ると思ってたけどな。しかもそいつらまで連れてきて。お達はどこまで行ってもお人好しだな」


「何やってるんだ……! 早く逃げろ!」


 背中を強打してすぐに動けないXが声を上げる。


「逃げられるわけないでしょ!? 私は探偵なの! 犯罪者を目の前にして、そんなこと……!」


「前に言っただろ! 探偵は人を助けるんだ! すぐに皆と逃げろ! 皆を守ってくれよ!」


 Xはフェンスをつかみながら立ち上がった。


「ふざけないで!」


 ベクルックスは自己犠牲と言っていた。癪だが、それはその通りだと思う。この人達はどうして。皆のことは守るのに。


「人を助けるって言うけど! もちろん、皆のことは守りたい! でも、貴方達のことも守る対象なの!」


「――っ!」


 Xの瞳が揺らいだのが、仮面越しでもわかった。


「当たり前でしょ!? 私にとっては、貴方達も大事な仲間なのよ!」


 思いの丈を、ぶつけた時。実鈴は気づいた。いつの間にか、ベクルックスがXのそばに来ていた。


「逃げ――」


「っ!」


 実鈴が言い終わらないうちに、ベクルックスはXの胸ぐらをつかみ、フェンスに押し付けた。


「……全員揃ってるな」


 そう言うなり――Xの仮面を弾き飛ばした。


「!!」


 怪盗達がハッと息を飲む。


「嘘だろ……」


 屋上に入ってきていた慧悟が声を漏らした。


「翔太……?」


「嘘っ……!」


 実鈴以外が絶句していた。


「……まあ、そうするためにわざわざ学校に来たってことは、わかってたけどな」


 頬に切り傷を作ったAはため息をついた。


 突然ベガの攻撃が止まり、不思議に思った刹那、仮面を外されたXを見て、全てを悟った。


「ごめんな皆。怪盗Aは、俺なんだよ」


 Aはサングラスを外した。R達も、次々とサングラスを外す。Aが向けたスマホの画面にはKとYが映っている。


「どうして……」


「なんで!」


 絶句する皆の顔を直視出来なくて、目を逸らす。


「理由は、後で話す」


 顔を伏せたXは、自分の胸ぐらをつかんだままのベクルックスの腕をつかんだ。


「離せ!」


 腕を振り払い、燃えるようなオッドアイでベクルックスを睨みつける。


「許さない。皆を、危ない目に遭わせたことを!」

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