第199話 対峙

 階段を登り、屋上の入口に着いたベクルックスはドアノブに手を掛けた。回すと――鍵は掛かっていなかった。勢いよく開け放つと、四色のジャケットが木枯らしに揺れていた。


「来たか」


 Aが振り返り、ベクルックスと対峙する。


「組織も派手に出るようになったもんだな。実鈴もいるのに、警察に通報されるとは考えなかったのか?」


「通報されたとして問題は無い。その前に目的を達成して逃げればいいだけだ」


「俺達がいるのにか? 目的は何か知らないけどなあ、無関係の皆を巻き込むのだけは許せねえ!」


 Aの言葉に怒気が混じる。


「……組織がどうして派手に出たのか、貴様ならわかっているだろう」


 ベクルックスは表情を全く変えない。無表情のままだ。以前のベクルックスなら、嘲笑ぐらい浮かべていそうなものだ。


「もちろん、わかってるさ」


 追いかけてきていたXが後ろ手に扉を閉めながら言った。


 実鈴には濁したが、本当はわかっていた。


「まあお前達なら考えそうなことだ。けど、それでも来た。そんなことより、皆を守りたかった。それだけだ」


「……お得意の自己犠牲か」


 もう、皮肉を言うのも疲れた。


 早く片付けてしまおう。全てが終われば、このモヤモヤも無くなるだろう。このままだと、自分が自分でなくなってしまいそうだ。


「……ねえ、A」


 Rは前を見ながら口を開いた。


「何があったのか、私にはわからないけどさ、私は、何があってもAの味方だよ」


「……ありがとう」


(ごめんな、瑠奈。俺は……お前のことを、信用しきれてない)


 信用したい。心の底から信じたい。それなのに、それが怖い。


「これで終わりにしてやる」


 ベクルックスの声とともに、アルタイル達が構えを取る。


「それはこっちのセリフだ。決着をつけてやる」


 A達も構えを取る。一気に空気が張りつめ、風が突き刺さるように痛い。


 先にしかけてきたのはアルタイルだった。一瞬で間合いを詰め、右ストレートを繰り出す。


「はあっ!」


 Rが飛び出し、拳をいなしながらカウンターを放つ。


 ベガが放ったゴム弾を払い落としたA、シリウスに飛びかかるU、プロキオンの攻撃を躱すT、フォーマルハウトを睨みつけるX。ベテルギウスはベクルックスの傍に控えている。



 実鈴は香澄に支えられながら階段を登っていた。


「……先生、送られてきたメールって、どういう内容でしたか?」


 尋ねられ、前を歩いていた永佑は「ああ……」と振り返った。


「『明日の昼前、クラスに行く。クラスにいる全員、人質だ』って」


 随分端的な文章だ。


「……ごめんな。俺がちゃんとしてれば、こんなことには……」


「そんなことないです。……仕方なかったんですよ。私の方こそ、すみません。何も、気づけなくて」


「こんなの、予想出来るわけないだろ」


 慧悟が口を開く。


「誰も悪くねえよ。オレは、伊月がなんであんなことをしたのか知りたいだけだ」


「……そうね」


 ――予想はついているけれども。


 その予想が正しいのなら、どんな手を使っても皆を屋上に行かせないべきだ。けれど、こうなってしまった以上、うやむやにすることは出来ない。それに、ベクルックス達もそうするためにわざわざクラスに乗り込んで来たのだろう。


 きっと、怪盗達には怒られる。拒絶される。けれど、自分達が行かなければ――この戦いは終わらない。

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