第66話 謎

 ベクルックスは椅子に座り、ズラリと並んだモニターを見つめていた。画面が何分割にもされ、色んな映像が流れている。ベクルックスが見つめていたのは、雪美と海音を閉じ込めている部屋の映像だった。海音が口に手を当てて激しく咳き込み、雪美が泣きながら側に寄り添っている。


「……ほっとくわけにはいかない、か」


 呟くと、立ち上がった。



「海音君、海音君……!」


 雪美は泣きながら海音の背中をさすっていた。それしかできなかった。海音は苦しげに激しく咳き込んでいる。


 その時、再びドアが開いた。


「――!」


 振り返ると、また伊月が立っていた。まっすぐに二人に向かって歩いてくる。


「……何の用?」


 雪美が訝しげに尋ねると、伊月はぶっきらぼうに吸入器を突き出した。


「あ……」


「……貴様に死なれると困る。使っとけ」


 それだけ言うと、部屋を出ていった。


 雪美は受け取った吸入器を少しの間見つめていたが、すぐに海音に差し出した。


 咳が収まった海音は肩で息をしていた。


「助かった……」


 大きく息をついた雪美は壁に寄りかかった。


「ごめん、雪美さん。こんなところで……」


「謝らないで。仕方ないもの……。それより……」


 海音は「うん」と頷いた。


「なぜ、大田君は敵なのに僕を助けたのか……」


 海音の表情が、弱った顔から怪盗の顔になった。まだ顔は青白いが、口調ははっきりしていた。


「けど、奴らが本気で殺そうとしているのは高山君だけな気がする。相賀達を襲ってきたりはいくらでもあったけど、傷を負わせるだけで、殺そうとはしていなかった」


「確かに……。高山君のことはわかるけど、どうして私達は……」


 海音は息をついた。


「……いや、今はここから脱出する方法を考えよう。皆は来ると思うけど、それまでここで待ってるわけにはいかないからね」


「……うん」


 雪美は力強く頷き、ほどけかけていた髪を一本の三つ編みに編み直した。



 A達は坂を登り、島の頂上にある屋敷に向かっていた。


「俺が調べた情報だと、あれは奴らのアジトの一つで、奴らの仲間が何人もいるらしい。うまく行けば、数人捕まえられるだろうな」


「どこから入るの?」


 Rが尋ねる。


「裏口とかはないから、正面突破しかない。けど、わざわざ俺達を呼び寄せてるんだから、あまり攻撃は仕掛けてこないと思う。用心するに越したことはないけどな」


 A達は屋敷の前の茂みに身を潜めた。


「あれは……末端だな。吹っ飛ばして問題ない奴らだ」


 屋敷の入り口に立っている二人の黒服の男を見たAが冷静に分析した。


「OK!」


 返事をしたRとTが茂みから飛び出し、男達が反応するより前に回し蹴りと上段突きで吹き飛ばす。


「よし」


 三人も茂みから出てきた。


「見た感じ、屋敷は五階建て。二人を閉じ込めておくとしたら窓のない部屋がいいから、地下はあると考えたほうがいいだろう」


「俺とUが二人を助けに行く。R、T、Xは実鈴達が来るまで奴らを倒しててくれ」


 XとAが続けて言うと、三人は頷いた。


「行くよ!」


 Rが勢いよく玄関の扉を開き、飛び込んだ。続いてT、X、A、Uが飛び込む。


「はあっ!」


 玄関ホールにいた黒服達が吹き飛んでいく中、AとUは気配を消しながら地下への入り口を探しに玄関ホールを離れた。

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