第67話 厄介な相手

「来たか」


 モニタールームで屋敷内に仕掛けてある防犯カメラの映像を見ていたベクルックスは椅子から立ち上がった。


「地下を見抜いたか……流石だな」


 口の端を持ち上げると、部屋を出ていった。


「はっ!」


 Xは軽やかにジャンプして壁についていたライトにぶら下がった。そして振り子のように体を揺らして勢いをつけ、その勢いのまま黒服の一人の背中に飛び蹴りをかけた。


「ぐはっ!」


 顔面から床に叩きつけられた黒服は呻き声を上げ、ぐったりとした。


「……奇襲は来るかもしれないと思ったけど」


 Xはホールを振り返った。


「まさか、ここまでとはね」


 ホールの床には二十人ほどの黒服が倒れていて、起きている黒服は十五人ほどいた。


(体力を消耗させて、自分達で仕留めやすくする気か……?)


 Xは疑問を抱いた。


(わざわざアジトに呼んでいるし、ここは孤島だ。いくら発砲しようが騒ごうが誰にも気づかれない。だったら、さっさと僕を始末して彼らを捕まえるなりすればいいのに……)


 デネブとか言う奴は、頭が切れるはずだ。こんな非合理的な襲い方をするだろうか。


(何か事情があるはずだ)


 Xは突っ込んできた黒服の腕を取り、足を払って床に叩きつけた。そして顔に催眠弾を撃ち込む。更にTと交戦している黒服にも催眠弾を撃った。


(まあ、まずはこいつらを倒して情報を聞き出すか)


 仮面をつけ直したXは近くにいた黒服の男の腹に拳を打ち込んだ。



 海音と雪美が閉じ込められている部屋の真上から激しい音がした。


「え?」


 雪美が驚いて天井を見上げる。何か重いものが落ちる音が更に響いた。


「もしかして、皆が来たんじゃ……」


 海音が言うと、雪美はぱっと顔を明るくした。


「よかった……」


 息をつく雪美を横目に、海音は険しい顔をしていた。


(けど、皆が簡単にここに来れるとは思わない。何か仕掛けてくるはず……)


 無事に来て欲しい――海音はそう心のなかで祈った。



 ミルキーウェイ号の地下二階。真っ暗な廊下をスマホのライトで照らしながら歩く人物がいた。


 ある部屋の前にたどり着き、壁についているキーパッドを操作して扉を開ける。中には作り付けの小さな金庫が壁を覆うように並んでいた。


 人影はある金庫に近づき、ポケットから鍵を取り出して金庫の鍵穴に差し込んだ。金庫を開けると――中にはブルーダイヤモンドが入っていた。人影はそれを布でくるんでポケットにしまい、金庫の鍵をかけて部屋を出ていった。

 


 屋敷の廊下を歩いていたベクルックスはふと立ち止まり、スマホを耳に当てた。


「フォーマルハウトか。……わかった」


 電話を切ったベクルックスはまた歩き出した。その横にアルタイルがやってくる。


「奴らが来た。オレがXを仕留めるまで足止めしておけ」


「はっ」


 一礼したアルタイルは廊下を右に曲がっていった。



「はぁ、はぁ、はぁ……」


 黒服を倒し終えたRは肩で息をした。


「これで全部か……?」


 Tも息を荒くしている。


「ああ……そのはずだ」


 Xも頬に垂れた汗を拭った。


 その時、ホールから廊下に繋がる扉が派手な音をたてて吹き飛んだ。


「――!?」


 三人が振り返る。


 そこにはアルタイルが立っていた。


「そんな……」


 Rが呆然とする。もう、アルタイルを退けられる体力は三人とも残っていなかった。

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