第191話 クラスメート

「あーさみぃ……」


 翌日の昼休み。慧悟と竜一は教室の隅に設置されたストーブの前で暖をとっていた。


「あ、そういえば知ってるか? 竜」


「あん?」


「翔太が休んでる理由、職員室に行ったら偶然聞こえたんだけどよ」


 慧悟が言うと、竜一は驚いて目を見開いた。


「高山の? 体調不良じゃねえのかよ」


「僕もそう聞いてるけど」


 と、ストーブの前の席に座って本を読んでいた翼が振り返った。


「そうじゃないらしいぜ。なんか、ケガで入院してるとか」


「は!?」


 驚いた竜一が、思わず大きな声を出す。すると、教室にいたクラスメートが全員三人を振り返った。


「あ……悪ぃ」


 竜一はバツが悪そうに肩をすくめた。


「どうしたの?」


 課題をやっていた香澄が尋ねる。


「慧悟、この際言っちまった方がいいぞ」


「……だろうな」


 ため息をついた慧悟はクラスメートに同じことを話した。


「入院するほどのケガって相当のものだよね」


 愛が顔をしかめる。


「普通に考えれば交通事故だと思うけど、冬休み中、この辺りでそんなのなかったしな」


 光弥も腕組みをして険しい表情をしている。


「問題なのは、どうして先生がそれを教えてくれないのかってことかな」


 メガネを押し上げた明歩が言う。


「確かに! 別に言ってくれたっていいよね。心配だし」


 柚葉が言うと、香澄も頷いた。


「教えられない理由でもあるのかな……」


 翼は机に置いた本を見ながらボソッと呟いた。



 その頃。永佑は授業の準備をしていた。その脳裏に、翔太の声が蘇る。


『僕が入院したこと、クラスメート達には言わないでください。心配かけたくないし、お見舞いとかに来られるとちょっと……』


(なんだよ、お見舞いに来られたくないって……でもさっき、黒野が職員室に来た時、教頭達が話してたからな。聞こえたかも……)


 デスクに散らばった書類をまとめてファイリングし、パソコンをスリープにする。


「そろそろ行くか」


 椅子から立ち上がった時、ズボンのポケットに入っているスマホが震えた。


「ん? ……メール?」


 知らないアドレスからだ。基本、そういうメールは開かないようにしているのだが、なにか嫌な予感がする。このメールを開かなければいけないような気がする。


 永佑は少し震える指でアプリを起動した。メールを読んだその目が大きく見開かれる。



「あ、雪降ってる」


 掃除の時間。箒を持った明歩は窓の外を見て呟いた。


「ほんとだー! 積もるかなあ」


「粉雪っぽいから積もらなさそう」


 そこに柚葉と愛もやってくる。


「そういえばさ、今日の永ちゃんおかしくなかった?」


「永ちゃんが?」


 明歩の問に、二人が首を傾げる。


「ほら、五時間目の数学。前やったところなのにもう一度やろうとするし、言い間違い多かったし。なんか落ち着きなかったんだよね」


「そういえば、そうだったかも」


 愛が思い出すように斜め上を向く。


「あ、それ思った」


 と、机を運んでいた香澄が振り返った。


「なんか永ちゃんらしくなかったよね」


「だよね! どうしたんだろう……」


「娘さんが体調悪いとか?」


 柚葉が言う。


「それなら帰ると思う。それに、私達に言ってくると思うんだよね。なんかあったのかなあ……」


 明歩は粉雪が舞い散る空を見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る