第214話 白状

「え……?」


 一同が息を飲む中、声を上げたのは翼だった。大きく目を見開いた翼は、思わず一歩踏み出した。


「……嘘、だろ……? じゃあ、メディアに出なくなったのは……」


「オレが殺したから。もう、この世にはいない」


「…………!!」


 愕然とした翼が、地面に膝を着く。


「安藤く――」


 実鈴は声を掛けようとしたが、言葉は途中で止まった。翼が、今まで見たことがないほど絶望した顔をしていたからだ。


「……次男と言っていたな。他にも兄弟がいるんだな? その人のことは、殺していないのか?」


 五島警部は、険しい表情で尋ねた。


「兄が一人いる。それが、高山翔太だ」


「――!!」


 さらに明かされた事実に、翼は顔を上げた。生徒達も顔を見合わせる。


「……私は捜査一課だが、高山レオンさんが殺されていたなどという事件は聞いていない。どうしてだ?」


「高山レオンとその妻、高山とあは、我々が所属する組織のスパイだったからだ。組織の存在が世間に露呈することを恐れ、事件を葬り去った。結果、高山翔太や限られた人間しか知らないことになった」


 よどみなく答えていく伊月だが、その声は抑揚がなく、まるでロボットのようだった。


「……あとは、署で聞こう」


 五島警部が促すと、伊月は振り返り、出入口に向かって歩き出した。その後ろに、手錠を掛けられた幹部達が続く。


「……兄さん」


 フォーマルハウトとすれ違う時、実鈴は思わず呟いた。


 しかし、フォーマルハウトは実鈴を振り返らずに校舎に入っていった。


「皆さんも、後で事情聴取を受けてもらうことになりますので、教室で待機していてください」


 五島警部に声をかけられ、一同は無言のまま校舎に戻って行った。



「…………は?」


 渡部邸に戻っていた相賀は、実鈴からの電話に愕然とした。


「……伊月が……自首した……?」


「え!?」


 同じ部屋にいた瑠奈達も耳を疑う。


『どうしてかはわからないけど……高山君の家族を殺したことを白状して、五島警部に連行されたわ。私達は今、事情聴取のために教室待機よ』


「……そうか。……悪かったな、巻き込んで」


『貴方が謝る必要ないじゃない。貴方達は私達を助けてくれた、そうでしょ? ……私一人じゃ、何もできなかったもの』


 実鈴の声が、悔しげになる。


『紬のこともあって、感情が爆発してしまった。結果、返り討ちよ。自分が情けなくてしょうがないわ』



 廊下で電話をしていた実鈴は、大きなため息をついた。そして、教室の扉にはめ込んであるガラスを覗く。


 教室では、生徒全員と永佑が神妙な顔で椅子に座っていた。翼に至っては、机に突っ伏している。


「……それで、どうするつもり?」


『どうするって……ああ』


 相賀の声が、一気に低くなる。

 

「こうなった以上、ちゃんと説明しなきゃいけないわ。ここまで踏み込んだのなら……いえ、踏み込ませてしまったのなら」


『わかってる。ただ……少し時間をくれ。……頭を冷やしたい』


「……そうね。わかってるわ。私も少し頭を整理したいわね。……兄さんが、逮捕されたから」


 正直、頭の中はパニック状態だった。


 本当の兄だと思っていた人間が、目の前で手錠を掛けられたのだ。これから取り調べられることになるだろうが、一体、どれほどの罪になるのか検討もつかない。


 そう考えるだけでも、心は深く沈んでいく。


『……だな。連絡ありがとう、実鈴』


「ええ。また何かあったら電話するわ」


『ああ』

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