第114話 墓参り
翔太は花がはみ出しているビニール袋と水の入った桶を持ち、墓地を歩いていた。墓地の側に植わっている銀杏の色づいた葉が舞う中、ある墓石の前で足を止める。その墓石には『高山家』と彫られていた。
翔太はその墓石に乗っていた枯れ葉などを払い、桶の水を柄杓でかけた。そして枯れかけている花を持ってきた花と入れ替え、線香を添える。
「風斗、誕生日おめでとう」
小さく言いながら、チョコレート等のお菓子と、風斗が好きだったバナナを墓石に置く。
「四歳か……年少だよね。ホントなら入園か……」
人懐っこい風斗のことだ。きっと友達に好かれただろうに――。
「絶対に仇取るから」
しゃがんでいた翔太は立ち上がった。そして通路の方を向く。そこには相賀がいた。驚いたように立ち止まっている。
「え……? 木戸君……何で……」
「……俺の母さんの墓も、ここなんだよ」
少しつっけんどんに答えた相賀は持っていた桶を地面に置いた。
「……お前、仇ってどうするつもりなんだよ」
どうやら話しかけていたのを聞かれていたらしい。翔太はため息をついた。
「家族を殺した組織を壊滅させる。それが僕の仇の取り方だよ」
「……よかった。犯人を殺すとか言わなくて」
相賀が小さく呟くが、ちょうど強い風が吹いてきて、翔太には聞き取れなかった。
「ごめん、風で聞こえなかった」
「いや、何でもない」
首を振った相賀は置いていた桶を持った。
「じゃあ俺行くな」
「うん」
翔太が頷くのを見て歩き出す。思い詰めたような表情をした相賀は角を曲がり、墓地の一番隅にある墓石の前にやってきた。
翔太と同じように葉を払い、桶の水をかけて線香を添え、真優が好きだった金平糖を置く。
「なあ、母さん……どうして教えてくれなかったんだ……」
切なげな目で墓石を見つめる。近くの墓石の影に隠れて盗み見していた翔太は目を伏せた。
『ごめん……ごめん……ね……』
真優の最期の言葉が脳裏に蘇ってきて、相賀はギュッと目をつむった。
(あのときの謝罪って……このことだったのか……?)
相賀にはわからない。
「何で俺だけ……
絞り出すように呟く相賀に、銀杏の葉が舞い降りた。
翔太は相賀が墓地を去った後、銀杏の大木に寄りかかっていた。
(……木戸君がどういう状況なのかわかった……気がする。けど……僕に……僕達に何ができる……?)
様子を見る限り、相賀の傷はかなり深い。自分達が癒やすことはできるのか――。
「……わかんないな。僕自身だって、どうすればいいかわかんないんだから」
自虐的に呟いた翔太は墓地を出ていった。
「何でなんだよ!」
アジトに相賀の怒鳴り声が響いた。その頭には包帯が巻かれている。
「どうしてあいつらに情報が洩れるんだ! サーバーの足跡は消してるし、デネブの網も避けてるのに!」
「落ち着いてよ相賀!」
救急箱を持った瑠奈が叫んだ。
「落ち着けばわかるでしょ!? 前に相賀が言ってたじゃない!」
「わかってる!」
相賀はデスクを叩きながら怒鳴り返した。
「スパイがいんだよ! 俺達の中にな! それが誰かわからないからこうなってんじゃねえか!」
「いい加減にせえ!」
拓真が相賀の胸ぐらをつかんで言った。
「石橋に当たったって何にもなんないやろ! 頭冷やせ!」
「……」
拓真を睨みつけた相賀は拓真の手を払った。
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