第115話 体育祭準備
拓真を睨みつけた相賀は拓真の手を払った。
「……悪い、瑠奈。当たる気はなかったんだ」
「……いいよ」
瑠奈は救急箱を棚に片付けながら素っ気なく返した。
「とにかく、俺達の中にいるスパイを見つけることが重要だ。じゃないと、また待ち伏せされかねないからな」
「今回のターゲットは、組織に関係なかったのに……まさかベガが待ち伏せているなんてね……」
海音がメガネを外しながら沈んだ声で言った。
「しかも実弾を使ってくるなんて…………もしかしたら、高山君を狙ってたんじゃない?」
ロングヘアを一本の三つ編みに編んだ雪美がパソコンを操作しながら訊いた。
「だったら、俺をわざわざ撃たないだろ。ったく、軽く掠っただけだからいいものの……」
頭に巻いた包帯を撫でながら相賀がソファに座る。
「――もう、今日は帰ろう。疲れたし、一回頭冷やしてからまた話し合おう」
瑠奈が棚の前に立ったままで言った。
「……そうやな」
「うん」
頷いた拓真達が無言でアジトを出ていく。
「……じゃあね、相賀」
最後に残った瑠奈も、それだけ言ってアジトを出た。扉が閉まる重い音が部屋に響き、相賀はうつむいた。
「……ごめん、皆……」
相賀の脳裏に、瑠奈と電話した後に呟いた一言が蘇る。
『……そのいつかが来る前に、俺はもういなくなってるかもしれないけどな』
(……組織には、行かない。けど……このままここにいるわけにも……)
あの時発した言葉は、違う意味で現実になろうとしていた。
翌日のロングホームルーム。二年A組のクラスでは、体育祭に向けた学級旗づくりに追われていた。海音達美術部が中心となり、部活無所属の黒野慧悟達が学級旗に色を塗っていく。
「ヤベ、ついちまった」
慧悟はため息を付いて来ていたジャージの腹の部分を見た。紺色の布地に白い絵の具がべったりついている。
「早く洗ってこないと。アクリル絵の具だからそうそう落ちないよ」
「……だよなぁ」
海音に促された慧悟は再びため息を付きながら教室を出ていった。
メガネを外している海音は夢中で筆を走らせていた。学級旗には、美しい天の川を駆けるペガサスが鉛筆で下書きされている。
雪美も負けず劣らず熱中していた。平筆に紺色の絵の具をつけ、真っ白な学級旗を染めていく。
「……ちょっと驚いたよな」
ジャージを洗って戻ってきた慧悟がふと言った。
「え?」
筆を洗っていた瑠奈が顔を上げる。
「大田だよ。あいつ、今まで行事とか全く参加してこなかったのに、今日の体育祭の話し合いにいたじゃん」
「……そう言えばそうだね」
パレットを持った坂巻愛が頷いた。
「サボることも減ったし、どうしたんだろうね」
部活が休みの翼がパレットで絵の具を混ぜながら相槌を打つ。
「……」
相賀の脳裏には、ベクルックスの悲痛な声が響いていた。
『違う……違う! 違うんだ!!』
(あいつが変わったのはあの頃からだな……)
あれから、学校をサボってばかりだった伊月が毎日のように来るようになったのだ。さらに、話し合いなどもいるようになっていた。
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