第116話 仲間
(あいつに何が起きたのか……)
相賀はため息をついて筆につけた絵の具を塗り始めた。
(……わからない。オレはどうすればいいのか……)
伊月は学校の屋上にいた。フェンスに寄りかかって座り込み、澄んだ青空を見上げている。
最近、非情になりきれない。学校も行く必要はないのに、サボる気も失せていた。
その時、屋上のドアが開いた。伊月がハッとして羽織っていた学ランの内側に手を突っ込む。入ってきたのは――翔太だった。
伊月を見た翔太の足が止まる。
「……何でいるんだ」
「こっちのセリフだ。学級旗作ってたんじゃないのか」
「サボってるやつに言われたくないな」
翔太は警戒しながら屋上のドアを閉めた。
「逃げればいいのに、何で残る?」
「死ぬのは僕だけでいい」
伊月は翔太の返事を聞いてうつむいた。
「……イライラすんだよ。その自己犠牲がな」
吐き捨てた伊月はサッと立ち上がった。翔太が身構える。
「お望み通り死なせてやってもいいが? こっちも都合が良いしな」
ニヤリと笑いながら学ランの影から拳銃をチラつかせる。
「……今はやめてくれ。こんなところで死んでられない」
伊月は意外そうな顔をした。
「……へえ。死ぬ気が失せたのか」
「違う。今ここで死んだら、木戸君達が何をしでかすかわからないから」
翔太の返事を聞いた伊月の顔が険しくなった。引き出しかけた拳銃をしまい、舌打ちをする。
「こんな時まで仲間のことか。……反吐が出る」
吐き捨てた伊月は屋上の入り口に向かった。すれ違いざまに翔太の側頭部に拳銃の形にした左手の人差し指を当てる。
「――!?」
「覚悟しておけ。仲間のことばかり考えていたら、自分が危ないと」
それだけ言うと手を離し、ドアを開けて屋上を出ていった。
残された翔太は、訝しげに閉まったドアを見つめた。
「あ、兄さん」
自宅に帰った海音は玄関で兄・
「海音。随分遅かったな」
「体育祭の学級旗作ってたから。兄さんはこれから出かけるの?」
海音は唯音が持っているボディバッグを見て尋ねた。
「うん、友達と夕飯の約束をしててね。
「うん。行ってらっしゃい」
唯音は軽く手を上げて出ていった。
「お兄ちゃん!」
自室からリビングに降りてきた詩乃は、ソファに座ってテレビを見ていた兄・
「うわっ……詩……」
恒が呆れたような顔をする。
「あのねあのね!」
「はいはい」
恒は少し困ったような笑みを浮かべながらも詩乃の話に耳を傾けた。
「ただいまー……って、あれ? 兄さんは?」
事件の捜査から帰ってきた実鈴は兄・
「バイトが長引いてるんだって。もうすぐ帰ってくると思うけど」
「ふーん……」
実鈴は頷きながら買ってきた食材を冷蔵庫に入れた。
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